テミス

テミス — 法と掟の女神

テミス（古希: Θέμις, Themis）は、古代ギリシャの神話において法と掟を象徴する女神です。彼女はウーラノス（天）とガイア（大地）の娘であり、ティーターンの一員でもあります。この名前は古代ギリシャ語で「不変なる掟」を意味し、まさに掟の擬人化といえます。ただし、彼女が象徴する正義は、近代や現代における概念とは異なり、古代ギリシャにおける法秩序の重要性を強調しています。

テミスの対比と重要性

一般には「正義の女神」として知られるテミスですが、ここで注意が必要なのは、古代ギリシャでの正義の概念はディケー女神によって体現されています。ディケーは具体的な正義を示すのに対し、テミスは社会の掟や法の根源としての役割を担っています。ティーターンとオリュンポスの神々の戦いの後、敗北したティーターンたちは地位を失いましたが、テミスは引き続き重要な存在であり続けました。

テミスの家族

テミスはヘーシオドスの『神統記』に登場し、ゼウスの二番目の妻として記されています。彼女はゼウスとの間に三人の女神、エウノミアー（秩序）、ディケー（正義）、エイレーネー（平和）のホーラーをもうけました。また、三人の運命の女神、クロートー、ラケシス、アトロポスのモイライも彼女から生まれたと伝えられています。

ヘーラクレースとテミス

有名な英雄ヘーラクレースが第11番目の課題であるヘスペリデースの黄金の林檎を取得する際、テミスの子供たちが重要な役割を果たすことになります。彼を導いたのは、ゼウスとテミスの間の娘であり、海神ネーレウスに関する情報を提供しました。さらに、古代の劇作家アイスキュロスは、プロメーテウスもまたテミスの子であると述べています。

デルポイの神託所とテミス

デルポイの神託所は、初期にはテミスによって管理されていたとされています。この地はアポロロンが後に支配することになる神聖な場所で、テミスは予言の能力に秀でており、アポロロンにその技術を授けたと言われています。このことは、彼が後にデルポイで神託を行う基盤ともなる非常に重要な歴史的出来事です。

大洪水と人間の再生

ゼウスは「青銅の時代」の人間たちが道徳を逸脱したために、大洪水を起こす決断を下します。しかし、プロメーテウスの息子デウカリオーンと妻ピュラーだけが洪水を避けることができました。彼らはテミスに祈り、人間の種族を再生する方法を尋ねます。テミスは「母なる地の骨を背後に投げよ」との教えを与え、そこから新たな人間が生まれることとなります。

ローマ神話におけるテミス

ローマ神話では、テミスはユースティティアに相当するとされ、近代の法と正義のシンボルとして広く認識されています。彼女の形象が司法に結びつくことになったのは、ユースティティアの影響を受けた結果であり、現代においても著名な象徴として存在しています。

テミスは、古代ギリシャにおける法と掟、さらには社会的秩序の重要性を象徴する存在であり、神々との結びつきから見ると非常に興味深いキャラクターといえるでしょう。

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