アスモデウス (ゴヤ)

絵画『アスモデウス』の詳細

フランシスコ・デ・ゴヤによる絵画『アスモデウス』は、1820年から1823年にかけて制作された作品です。この絵は油彩を用いた壁画であり、ゴヤが70代半ばという高齢の時期に、精神的かつ肉体的な苦痛を抱えながら、プライベートな空間であるキンタ・デル・ソルドの壁に描かれた、全14作品から成る《黒い絵》系列の一部として知られています。

『アスモデウス』は、特にその神秘的な主題が注目されており、亡きゴヤによって題名が付けられることなく、彼の死後にその名前が与えられたことが特徴です。題名の由来は、旧約聖書における外典『トビト書』に登場する悪魔アスモデウスから来ているとされ、その解釈においても多様性が見受けられます。そのため、本作は長い間多くの美術評論家や研究者たちにとって、深い考察の対象となっているのです。

主題と背景

『トビト書』の物語を通じて、この絵の主題であるサラは悪魔アスモデウスに取り憑かれており、7度の結婚を繰り返しながらも夫たちが新婚の瞬間に命を落としてしまうという禁忌の運命にいたります。ゴヤ自身も、当時の社会や人間の心理の暗い側面に悩みながら作品を描いていたのかもしれません。

物語の中で、トビアスは天使ラファエルの助けを受け、ティグリス川の魚の心臓と肝臓を燻して悪魔を追い払うというクライマックスに至りますが、これによってサラとトビアスは結婚することができました。このストーリーは、ゴヤの描く『アスモデウス』との関連性を持っており、サラの悪魔アスモデウスからの解放というテーマが大きく表われています。

描かれた人物と構図

『アスモデウス』では、空を浮遊する男女が描かれています。男性はその様子から恐怖を抱いているように見え、背後には赤いローブをまとった女性がいます。二人は異なる方向を見つめており、女性は赤いローブで口を覆っています。男性は遠くに見える岩山を指差しており、その頂上には何らかの建物が描かれていますが、そこへ続く道は見当たりません。地上には軍隊が行進しており、そんな光景が描かれることで不安定な情勢が暗示されています。

この作品の飛翔する人物たちは、ゴヤの他の作品にも見られるテーマであり、特に1780年代以降の作品に見ることができる象徴的な表現です。また、アスモデウスはソロモン王に仕えていた悪魔として知られており、その神殿を模した建物が岩山の上に描かれたものであるとも考えられています。

美術史的な視点

『アスモデウス』の解釈には多くの論争と困難が伴います。美術史家のヴァレリアーノ・ボサルは、「その解釈はすべて失敗に終わった」と述べており、ロバート・ヒューズも、本作が何を表しているのか詳細に決まった考察がないことを指摘しています。彼の見解によれば、飛翔する人物像が魔女として捕らえられており、フランス兵に対する呪いを施すために現れた可能性が示唆されています。このように、ゴヤの意図やメッセージは、作品に触れる人々により読み解かれるべきもので、時代や文化によって異なる解釈を生むのです。

作品の来歴

ゴヤが1823年に亡命した際、キンタ・デル・ソルドは彼の孫に譲られ、その後売却されるなど、様々な手を経て1889年にプラド美術館に寄贈されました。壁画の保存作業は他の絵画とともに行われ、長い年月を経て現在も、その謎めいた魅力を放ち続けています。絵画が公開されて以来、多くの観衆がこの作品の前で足を止め、その独特な雰囲気に魅了されているのです。

『アスモデウス』はその謎めいた構図と深いテーマ性により、アートファンにとって忘れられない作品となっています。

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