アゼライン酸

アゼライン酸とは

アゼライン酸（Azelaic acid）は、白色の粉末状の飽和ジカルボン酸で、穀物中に天然に存在する有機化合物です。工業的には、オレイン酸をオゾン分解することで生産され、その過程でノナン酸が副産物として生成されます。また、皮膚に常在する酵母によっても自然に生成されます。

生物学的機能

植物においては、感染後の防御反応に関わる「苦痛時の炎症」の役割を果たし、防御反応に重要なサリチル酸の蓄積を促す信号となります。

ポリマーと関連素材

アゼライン酸のエステルは、潤滑剤や可塑剤として利用されます。特に、潤滑剤としてはリチウム複合グリスの増粘剤として、また、ヘキサメチレンジアミンとの結合によりナイロン6,9の原料としても用いられ、プラスチックの特殊な用途に貢献しています。

医療用途

アゼライン酸は、ジカルボン酸系の薬剤として、ニキビや酒皶の治療に用いられます。米国では、2003年に酒皶治療薬として、その後ニキビ治療薬として承認されており、日本国内では医薬品としての承認はまだありませんが、病院用製品として販売されています。

ニキビ治療

軽症から中等症のニキビ（尋常性痤瘡）に対して、面皰（めんぽう）と炎症ニキビの両方に効果があります。アゼライン酸は、感染した毛穴のアクネ菌を殺菌し、アクネ菌の成長を促進するケラチンの生成を抑制します。

アメリカのニキビ治療ガイドラインでは、アゼライン酸または抗生物質と過酸化ベンゾイルの併用が推奨されています。しかし、日本では保険適用がないため、アゼライン酸の推奨度は低いのが現状です。

酒皶治療

酒皶の治療においては、炎症を抑制する効果があり、盛り上がりや腫れの軽減に役立ちます。

美白効果

アゼライン酸は、メラニン生成を抑制する効果があり、肝斑や炎症後色素沈着などの皮膚の色素沈着の治療に用いられます。特に、肌の色が濃いタイプの人へのハイドロキノンの代替手段として推奨されることがあります。美白剤として認識され処方されることもありますが、承認された適応症ではありません。

肝斑に対する効果

肝斑に対する効果について、複数の研究結果が報告されています。

20%アゼライン酸と4%ハイドロキノンは同等の効果を示したが、アゼライン酸ではハイドロキノンのような重篤な副作用はなかったとする報告。
4%ハイドロキノンの方が20%アゼライン酸よりも効果的であったとする報告。
20%アゼライン酸が2%ハイドロキノンよりも効果的であったとする報告。
20%アゼライン酸が4%ハイドロキノンよりも効果的であったとする報告。

これらの研究結果は、アゼライン酸が肝斑治療に有効である可能性を示唆していますが、個々の状況によって最適な治療法は異なるため、専門医の診断を受けることが重要です。

副作用

アゼライン酸の使用による副作用として、チクチク感や熱感が生じることがあります。また、痒みを伴う場合もあります。臨床試験では、これらの副作用による中止例も報告されています。

胎児への危険度分類はBであり、妊娠中や授乳中でも比較的安全に使用できるとされています。催奇形性、変異原性、慢性毒性を示すデータはありません。

薬理作用

アゼライン酸は、カテリシジンを抗菌性皮膚ペプチドのLL-37に変換するプロテアーゼ活性を阻害することで抗菌作用を発揮すると考えられています。また、メラニンの合成を減らすチロシナーゼ阻害作用も持っています。

さらに、アゼライン酸は、脱毛抑制作用を持つフィナステリドやデュタステリドと同様の5α還元酵素阻害作用があることが示唆されています。

アゼライン酸誘導体

アゼライン酸の誘導体であるアゼロイルジグリシンKは、保湿作用のあるグリシンが結合しており、酒皶や肝斑に有効であるとする研究があります。

まとめ

アゼライン酸は、ニキビや酒皶の治療だけでなく、美白効果も期待できる多機能な成分です。ただし、副作用のリスクや、他の治療法との比較も考慮し、専門医の指導のもとで適切に使用することが重要です。

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