肝斑

肝斑とは

肝斑（かんぱん）は、皮膚にできる色素異常症の一つで、一般的には「しみ」とも呼ばれます。その特徴は、顔の中心を軸として左右対称に現れることです。肝臓の形に似ていることからこの名前がつけられましたが、肝臓の機能とは無関係です。主に30歳前後の女性に多く見られ、妊娠や経口避妊薬の使用が発症のきっかけとなることがあります。また、一部の薬剤も原因となることが知られています。

症状

肝斑は、境界がはっきりとした茶褐色の斑として現れます。特に目の外側や頬骨のあたりにできやすく、下顎や上口唇（鼻の下）にも見られることがあります。最も特徴的なのは、左右対称にできることです。

疫学

肝斑は、アジア人やヒスパニック系の人々に多く見られます。女性の発症率は男性の約4倍と高く、妊娠や経口避妊薬の使用が関連していることがわかっています。インドでの調査では、妊婦の約64%に肝斑が見られたという報告もあります。一方、黒人には発生しにくいと考えられています。

原因

肝斑の原因は完全には解明されていませんが、肝臓の機能とは無関係です。女性ホルモンの影響が指摘されており、妊娠や経口避妊薬の使用、更年期におけるホルモンバランスの変化が誘因となることがあります。また、顔を擦るなどの摩擦も肝斑を悪化させる要因となり得ます。洗顔やスキンケアの際には、顔を強く擦らないように注意が必要です。その他、一部の薬剤も肝斑の原因となることが知られています。

治療

肝斑の治療は、症状や原因に合わせて様々な方法が用いられます。妊娠中の肝斑は、出産後に自然に治ることが多いです。

日焼け止め

肝斑の治療において、日焼け止めは非常に重要です。紫外線は肝斑を悪化させる要因となるため、日常的に日焼け止めを使用することが推奨されます。日焼け止めだけでも、一定の改善が見られることがあります。

内服薬

内服薬としては、トラネキサム酸やビタミンCが用いられます。トラネキサム酸は、肝斑の改善に有効とされており、市販薬としても販売されています。ビタミンCは、皮膚の色素沈着を改善する効果が期待できます。

外用薬

外用薬としては、ハイドロキノン、トレチノイン、アゼライン酸、コウジ酸などが用いられます。ハイドロキノンは、メラニン色素の生成を抑制する効果がありますが、皮膚刺激などの副作用に注意が必要です。近年では、アゼライン酸やトラネキサム酸、コウジ酸など、安全性の高い成分が使用されることが増えています。また、医薬部外品の化粧品には、「メラニンの生成を抑え、シミ・そばかすを防ぐ」という効能表示が認められていますが、肝斑の治療を目的としたものではありません。

イオン導入

イオン導入は、トラネキサム酸やビタミンCなどの有効成分を皮膚に浸透させる方法です。電気の力を利用して、皮膚の奥まで成分を届けます。

鍼治療

伝統的な鍼治療も、肝斑の治療に有効であるという報告があります。複数の研究で、鍼治療が従来の治療法よりも優れている可能性が示唆されていますが、まだ結論を出すには十分なエビデンスがありません。

ケミカルピーリング

ケミカルピーリングは、酸性の薬剤を皮膚に塗布して、古い角質を取り除く治療法です。サリチル酸やグリコール酸などが用いられます。ケミカルピーリングは、肝斑の改善に効果が期待できる一方で、皮膚への刺激や副作用に注意が必要です。

レーザー治療

レーザー治療は、肝斑の治療選択肢の一つですが、慎重に行う必要があります。レーザーは、肝斑を悪化させたり、色素沈着を引き起こすリスクがあるため、他の治療法で効果が見られない場合に考慮されます。特定のレーザーは、比較的安全に使用できるとされていますが、専門医の判断のもとで行うことが重要です。

IPL治療

IPL（インテンス・パルス・ライト）治療は、肝斑の最初の治療選択肢としては推奨されません。肝斑を悪化させる可能性があるため、他の治療法を優先すべきです。

フラクショナルRF

フラクショナルRFは、肌の若返り効果が期待できる治療法ですが、肝斑に対する有効性はまだ十分に検証されていません。

プラセンタ注射

プラセンタ注射は、日本で長く使用されている治療法ですが、肝斑を悪化させるという報告もあります。

PLエキス

PLエキス（フェーンブロック）は、日焼け止めと併用することで、肝斑の改善に効果があるという研究結果があります。

成分浸透のための併用

マイクロニードリングやイオン導入など、有効成分の浸透を促すための治療法も用いられています。これらの治療法は、肝斑の改善に役立つ可能性があります。

参考文献

日本形成外科学会、日本創傷外科学会、日本頭蓋顎顔面外科学会『形成外科診療ガイドライン1 皮膚疾患』金原出版、2015年。

関連項目

雀卵斑（そばかす）
瘢痕（あばた）
エレクトロポレーション (美容法)
* メイラード反応

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