アッバース3世

アッバース3世：サファヴィー朝最後の君主

アッバース3世（1732年 - 1739年/1740年）は、サファヴィー朝の第11代君主として、激動の時代に翻弄された人物です。父は第10代君主タフマースブ2世であり、ナーディル・クリー・ベグ（後のナーディル・シャー）によって退位させられた父の後を継ぎ、1732年9月7日にわずか4歳でシャーの座に就きました。

しかし、アッバース3世は名目上の君主であり、実権はナーディル・クリー・ベグが摂政として掌握していました。ナーディル・クリー・ベグは、卓越した軍事力と政治手腕でペルシャを統治し、サファヴィー朝の権威を維持しようと努めました。しかし、その野心は次第に増大し、1736年3月、アッバース3世を退位させ、自らナーディル・シャーとして即位しました。これにより、サファヴィー朝は正式に終焉を迎えました。

退位後、アッバース3世は父タフマースブ2世と共にホラーサーンのサブゼヴァールの牢獄に送られました。1738年、ナーディル・シャーがアフガニスタン・インド遠征に出発すると、国内の留守を任された長男のレザー・クリー・ミールザーの元に、ナーディル・シャーが死亡したという噂が届きます。レザーは後継のシャーとなるべく動き始めますが、監禁されていたタフマースブ2世をサブゼヴァールの住民が解放し、シャーに復位させようと企てているという情報が入り、事態は急転します。

レザーは、ガージャール族のムハンマド・フサイン・ハーンに、タフマースブ2世とアッバース3世の処刑を命じます。ムハンマド・フサイン・ハーンは、タフマースブ2世を絞殺し、アッバース3世を斬首、さらに兄弟のイスマーイールも殺害しました。これらの出来事がいつ頃行われたかについては諸説ありますが、マイケル・アクスワージーは1739年の5月か6月頃であろうと推測しています。また、1740年とする情報源も存在します。

幼くしてシャーの座に就き、政治の道具として利用され、最後は非業の死を遂げたアッバース3世。彼の短い生涯は、サファヴィー朝の衰退とナーディル・シャーの台頭という激動の時代を象徴するものと言えるでしょう。


参考文献

Michael Axworthy, Sword of Persia: Nader Shah: From Tribal Warlord to Conquering Tyrant (IB Tauris, 2006)
L. Lockhart, Nadir Shah, London, 1938
R.M. Savory, Encyclopaedia Iranica*

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