アトラスIII

アトラスIII

アトラスIIIは、アメリカ合衆国の航空宇宙企業ロッキード・マーティンによって開発・製造され、2000年から2005年にかけて人工衛星の打ち上げに使用されたロケットです。初期のアトラスA型から続くアトラスロケットシリーズの中で、それまで独特な1.5段式という構成（複数のエンジンを搭載し、上昇中にその一部を分離する方式）を採用していたのに対し、初めて標準的な2段式へと構造を転換した画期的なモデルでした。

機体の特徴と構造

このロケットは、全く新しい設計の第1段と、長年にわたり多くの実績を積み上げてきた第2段の組み合わせで構成されていました。第1段には、後のアトラスVロケットでも採用されることになるロシア製液体燃料エンジン、RD-180が搭載されました。この強力なエンジンは、単基で高い推力を発揮することができました。一方、第2段には、1960年代からアメリカの多くのロケット、特にアトラス系列の上段として信頼されてきたセントール上段ロケットが用いられました。セントールは液体水素と液体酸素を推進剤とする高エネルギー段であり、静止トランスファ軌道などへの衛星投入に優れた能力を発揮しました。

アトラスIIIには、搭載する第2段セントールのエンジンの数によって二つの形式が存在しました。基本型である「アトラスIIIA」はセントールに1基のエンジンを搭載していましたが、より大きな打ち上げ能力を持つ「アトラスIIIB」では、セントールに2基のエンジンが搭載されていました。

運用実績

アトラスIIIの最初のフライトは2000年5月24日に行われ、欧州の通信衛星ユーテルサットW4を無事、静止軌道へと投入することに成功しました。その後、2005年2月3日に実施された6回目の打ち上げをもって、その運用を終了しました。この最後の打ち上げでは、アメリカ国家偵察局（NRO）の衛星が搭載されました。アトラスIIIによる計6回の打ち上げは全て、フロリダ州のケープカナベラル空軍基地にあるSLC-36B射点から実施されました。

アトラス系列における位置づけとGXロケット計画

アトラスIIIは、初期の弾道ミサイルを起源とするアトラスロケットが、使い捨て型衛星打ち上げロケット（ELV）として進化していく過程において、重要な橋渡し役を果たしました。従来の複雑な1.5段式から、信頼性の高い2段式へと移行することで、後のアトラスVに繋がる設計思想の基礎を築きました。

また、国際的な関連計画として、かつて日本の宇宙航空研究開発機構（JAXA）が開発を進めていたGXロケット計画が挙げられます。この計画は、将来の衛星打ち上げ需要に対応するため、国際協力を視野に入れていました。初期の構想では、第1段にロッキード・マーティンが製造するアトラスIIIを流用し、これに日本が新規開発する第2段を組み合わせるというものでした。種子島宇宙センターからの打ち上げが計画されていましたが、アトラスIIIが2005年に退役したことを受け、計画は変更を余儀なくされました。その後、2009年には第1段をアトラスVの共通コアブースターに変更し、打ち上げ場所もアメリカのヴァンデンバーグ空軍基地へと変更する再設計が行われましたが、度重なる計画変更と遅延の末、最終的にGXロケット計画自体は中止されることとなりました。アトラスIIIは、短い運用期間ではありましたが、アトラスロケットの技術的な転換点を示すとともに、国際協力の舞台でも検討された歴史を持つロケットと言えます。

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