GXロケット

GXロケット：日本の野心と挫折の物語

GXロケットは、日本の宇宙開発における野心的なプロジェクトでした。航空宇宙関係企業グループ、宇宙航空研究開発機構（JAXA）、そしてアメリカのロッキード・マーティンが官民共同で開発を進めた中型ロケットです。小型・中型人工衛星の打ち上げを専門とするギャラクシーエクスプレス社（GALEX）が運用し、ユナイテッド・ローンチ・アライアンス社（ULA）との連携の下、アメリカ合衆国カリフォルニア州のヴァンデンバーグ空軍基地から打ち上げられる予定でした。しかし、計画の遅延による開発費の高騰と、需要の低迷により、2009年に開発中止という結末を迎えます。

技術的特徴：世界初の挑戦

GXロケットは2段式の液体燃料ロケットでした。1段目には、実績のあるアメリカのロッキード・マーティン社製アトラスVロケットの1段目と、ロシアから技術移転されたRD-180エンジンを採用。画期的なのは2段目です。世界で初めて実用化を目指した、液化天然ガス（LNG）と液体酸素を推進剤とする国産エンジン（LNG系推進システム）を搭載する予定でした。ペイロードアダプタはH-IIAロケットと共通のものを使用し、打ち上げコストの大幅削減を目指していました。

LNG推進システムは、従来の水素/酸素推進システムに比べて比推力が低いものの、蒸発しにくく長期保存が可能、高密度でロケットの小型化に繋がり、安全性が高く燃料費も安いというメリットがありました。このシステムは、GXロケットの中止後も独立して開発が続けられています。

開発の経緯：紆余曲折の道のり

GXロケットの計画は、1997年に宇宙開発事業団（NASDA）がLNG推進系エンジンの飛行実証試験計画からスタートしました。当初は既存のH-IIロケットの2段目をLNGエンジンに置き換える案もありましたが、IHIの参入により、官民共同の宇宙開発計画「J-I改ロケット」計画（J-IA、J-IU、J-IIとも呼ばれた）へと発展します。

この計画は、アメリカのアトラスII ASロケットの燃料タンクとロシア製のNK-33エンジンを使用することで低コスト・高性能なロケットを実現しようとしました。しかし、NK-33エンジンの入手が叶わず、ロシア製のRD-180エンジンに変更せざるを得なくなりました。

開発開始当初は、3年での完成を目指していました。しかし、炭素複合材製推進剤タンクの開発難航や機体重量の超過など、様々な問題が発生。2段目の設計変更、推進剤タンクの金属化、エンジン方式の変更など、計画は大幅に変更され、完成予定は2009年にずれ込みました。さらに2008年には、1段目のロケットをアトラスIIIからアトラスVに変更、射場も種子島からヴァンデンバーグ空軍基地に変更されるなど、計画は大きく修正されました。

LNGエンジンの開発でも燃焼圧の変動などの問題が発生しましたが、2009年7月には実機型エンジン（LE-8）の燃焼試験が成功し、エンジン開発には目処が立ちました。しかし、平行して開発されていたターボポンプ・再生冷却式エンジンは2013年頃の完成予定で、開発の遅れが懸念されていました。

開発中止：高騰する費用と低迷する需要

開発費用は当初の見積もりを大幅に超過し、最終的には1500～2100億円に達すると見込まれました。世界初のLNG推進システムを採用した高リスクな計画でありながら、打ち上げコスト削減を目的とするロケットが、かえって莫大な費用を必要とすることになった点が批判されました。

2009年8月、宇宙開発戦略本部はGXロケットに需要と国際競争力が見込めないとの見解を発表。同年12月には開発中止が決定されました。H-IIAロケットで代替可能であり、打ち上げコスト面でも十分な需要が見込めなかったことが理由でした。追加で940億円の開発費が必要と予測されたことも決定打となりました。

GXロケットの中止により、ギャラクシーエクスプレス社は解散、IHIは100億円規模の損失を計上しました。

仕様とLE-8エンジン

GXロケットの打ち上げ能力は、当初はH-IIAの半分、M-Vロケットの2倍程度を予定していました。しかし、設計変更により一時的にM-Vと同等程度まで低下しましたが、アトラスVへの変更と射場変更により、当初目標と同等以上の能力に回復しました。

LE-8エンジンは、GXロケットの2段目に搭載予定だったLNG推進ロケットエンジンです。低価格のLNGを燃料に採用し、将来の軌道間輸送機や惑星探査機への応用も期待されていました。

まとめ

GXロケット計画は、技術的挑戦と開発費の高騰、需要の低迷という現実との間の葛藤を示す象徴的な事例です。LNG推進システムという革新技術は、将来の宇宙開発に繋がる可能性を秘めていますが、その実現にはさらなる技術革新と経済的な実現可能性の両立が不可欠です。この計画の成功と失敗は、今後の宇宙開発計画に貴重な教訓を与えてくれるでしょう。

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