アドゥアトゥカの戦い

アドゥアトゥカの戦い：ガリア戦争におけるローマ軍の敗北

紀元前54年、ガリア戦争中に起こったアドゥアトゥカの戦いは、エブロネス族の族長アンビオリクスが率いるガリア軍と、ガイウス・ユリウス・カエサル麾下のローマ軍との間で繰り広げられた戦闘です。この戦いは、ローマ軍にとってガリア戦争における最大の敗北の一つとなり、その後のガリアにおける反乱の火種となりました。

戦いの背景

カエサルはブリタンニア遠征を終えた後、ガリア各地にローマ軍団を派遣して冬営させることにしました。そのうち、第14軍団と5個大隊は、レヌス川（ライン川）とモサ川（マース川）に挟まれたエブロネス族の領土、アドゥアトゥカ（現在のトンゲレン）に駐屯することになりました。この軍の指揮官には、クィントゥス・ティトゥリウス・サビヌスとルキウス・アウルンクレイウス・コッタが任じられました。

戦闘の経過

エブロネス族の首長アンビオリクスとカトゥウオルコスは、突然ローマ軍の冬営地を攻撃しました。当初、ローマ軍は守りを固めて被害を最小限に抑えましたが、アンビオリクスはローマ軍に対して、ゲルマン人やガリア人が攻めてくるという情報を伝え、近隣のキケロやラビエヌスの軍と合流することを提案しました。さらに、エブロネス族の領土を通る際の支援も約束しました。

この提案に対し、サビヌスはアンビオリクスを信じて合流すべきだと主張した一方、コッタはカエサルの命令なしに移動すべきではないと反対しました。意見が対立する中、兵士たちの意見を尊重し、最終的にサビヌスの提案を受け入れることになりました。ローマ軍は夜明けとともに冬営地を出発しましたが、多くの荷物を持っていたため移動は遅れていました。ローマ軍が深い谷底に入ったとき、潜んでいたエブロネス族が突如として攻撃を開始しました。ローマ軍は混乱し、多くの兵士が殺害されました。サビヌスは降伏しましたが、アンビオリクスによって殺害され、コッタも戦死しました。辛うじて一部の兵士がラビエヌスの駐屯地へ逃れることができましたが、第14軍団は事実上壊滅しました。

戦いの影響

この敗戦はローマに大きな衝撃を与え、カエサルを批判する声も上がりました。アンビオリクスは、この勝利を機に他のガリア部族を扇動し、ネルウィ族やトレウェリ族、セノネス族らがローマに対して反乱を起こしました。ネルウィ族はキケロが駐留する冬営地を攻撃しました。この戦いは、カエサルにとってガリア戦争開始以来、最大の敗北となりました。

カエサルは翌年、エブロネス族への報復を開始し、アンビオリクスは逃亡、カトゥウオルコスは自殺しました。これにより、エブロネス族の抵抗は終息しましたが、ガリア全土ではローマに対する反乱が続き、紀元前52年にはウェルキンゲトリクスが指導者となり、カエサルと全面対決することになりました。

アドゥアトゥカの戦いは、ローマの支配に対するガリア人の抵抗が激化した転換点であり、その後のガリア戦争の展開に大きな影響を与えました。

参考資料

カエサル著、國原吉之助訳『ガリア戦記』講談社学術文庫
プルタルコス著、村川堅太郎編『プルタルコス英雄伝 下』ちくま学芸文庫

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