アナザー・カントリー

アナザー・カントリー：階級、性、イデオロギーの狭間で揺れる青春

1984年のイギリス映画『アナザー・カントリー』は、1981年初演の同名舞台劇を映画化した作品です。舞台と映画、双方で高い評価を受け、数々の名優を輩出した名作として知られています。舞台は1930年代のイングランド。伝統と格式を誇る全寮制のパブリックスクールを舞台に、同性愛や共産主義といった当時の社会問題に翻弄されるエリート学生たちの姿が描かれます。

物語の中心人物はガイ・ベネット。彼は実在のスパイ、「ケンブリッジ・ファイブ」の一人、ガイ・バージェスをモデルにした人物です。自由奔放で、同性愛を隠すことなく生きるガイは、学園の寮長というエリートコースを歩む一方で、複雑な心の葛藤を抱えています。

物語は、老いたガイがアメリカ人ジャーナリストに自身の半生を語る回想形式で進みます。1930年代の学校生活。ガイは美少年ハーコートに恋心を抱き、純粋な愛情を経験します。しかし、彼の周りには、彼とは対照的な人物たちが存在します。

トミー・ジャッドは、共産主義に傾倒する真面目な学生です。マルクス主義を熱心に学び、資本主義社会への批判的な視点を持ちます。ガイとは親友でありながらも、彼とは異なる価値観を持つことから、葛藤が生まれます。

一方、ガイは保守的な学生、ファウラーと対立します。ファウラーはガイの自由な生き方を快く思わず、彼を陥れようと画策します。学園内では、同性愛を理由に自殺した生徒がいるなど、社会の偏見や差別が影を落としています。

ガイは、自分の立場を守るため、そして愛するハーコートを守るために、様々な策略を巡らせます。同性愛者であることを隠したり、時には嘘をついたりもします。彼は学園の権力闘争に巻き込まれ、同性愛を理由に屈辱的な扱いを受けることになります。

しかし、ガイの行動は、彼自身の葛藤と、周囲の人間関係の複雑さを反映しています。彼は自分のアイデンティティを保ちながら、社会の中で生き残ろうと苦悩します。そして、スペイン内戦を背景に、ジャドの死、そして共産主義思想への傾倒を経て、最終的にロシアへ亡命します。

映画版では、ルパート・エヴェレットとコリン・ファースが中心キャストを務め、彼らの演技が物語に深みを与えています。特に、ルパート・エヴェレットは舞台版からの続投で、ガイ・ベネット役を完璧に演じきりました。コリン・ファースは舞台版とは異なる役を演じていますが、彼の存在感が作品全体の雰囲気を決定づけています。

映画の制作は、イートン・カレッジからの撮影協力拒否という困難を克服し、オックスフォード大学などの場所で撮影が行われました。監督は、それまでテレビドラマを手掛けていたマレク・カニエフスカが務め、これが彼の長編映画監督デビュー作となりました。

『アナザー・カントリー』は、単なる青春映画ではありません。階級社会、性、イデオロギーといった複雑な要素が絡み合い、人間の心の闇と光を描写した作品です。時代を超えて、観る者に強い印象を与える、傑作と言えるでしょう。舞台版も高い評価を受けており、多くの名優を輩出した舞台としても知られています。日本の舞台でも複数回上演されており、日本の観客にも愛される作品となっています。映画は第37回カンヌ国際映画祭芸術貢献賞を受賞するなど、高い評価を得ています。 時代背景、登場人物たちの葛藤、そして社会問題への鋭い洞察は、現代においても多くの示唆を与えてくれるでしょう。

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