アナスタシオス・オルランドス

アナスタシオス・オルランドス：古代とビザンティンを結ぶ建築史家

アナスタシオス・オルランドス（希: Αναστάσιος Ορλάνδος, 英: Anastasios Orlandos）は、1887年 12月23日に生まれ、1979年 10月6日にその生涯を終えた、ギリシャを代表する建築家、建築研究家、そして考古学者です。彼の功績は、特に古代ギリシャ時代からビザンティン帝国時代にかけての建築物の詳細な研究と、それに基づく保存・修復活動に集中しています。これにより、ギリシャの古典考古学およびビザンティン美術史の研究分野に計り知れない貢献をもたらしました。

彼の家系は、ギリシャ独立戦争において重要な役割を担い、後にアテネ考古学協会の設立にも関わった著名な政治家・革命家、イオアンニス・オルランドスに繋がります。その曾孫としてアテネに生まれたアナスタシオスは、幼い頃から歴史と文化に囲まれた環境で育ちました。1904年から1908年にかけてアテネ工科大学で建築学を修めた後、アテネ大学哲学部で考古学を深く学びました。そこではウィルヘルム・デルプフェルト、ゲオルク・カロ、ルドルフ・ヘバーデイ、アントン・フォン・プレメルシュタインといった当時の著名な学者たちの薫陶を受けました。学業の傍ら、1912年から1913年にかけては第一次バルカン戦争に従軍するという経験も積んでいます。そして、1915年にはスニオン岬にあるポセイドン神殿の破風に関する研究論文で博士号を取得し、学術的なキャリアの確固たる基盤を築き上げました。

オルランドスの実地での活動は、まだ学生であった頃から始まります。1910年から1914年にかけて、アルフレッド・ブリュックナーの指揮のもと、アンドロス島、エリス、そしてアテネのケラメイコスといった古代遺跡の発掘調査に携わりました。また、1910年から1917年の間は、ニコラオス・バラノスが進めていたアテナイのアクロポリス、特にプロピュライアの大規模な修復作業に参加しました。彼の研究は発掘だけに留まらず、1924年から1930年には自身でアルカディア地方の古代都市ステュムパロスにおける最初の発掘調査を主導し、1927年にはフェルディナンド・ノアクと共にエレウシスの発掘成果を発表しています。

文化財保護の分野でもオルランドスは中心的な役割を果たしました。1920年には古代史跡の復元を担当するディレクターに任命され、1942年までその職を務めました。その後は、1942年から1958年までの長期にわたり、ギリシャ全土の重要な史跡の保護活動を総指揮しました。この間、彼は多岐にわたる古代の文化財を守るだけでなく、数多くのビザンティン教会建築の修復も手掛けています。建築家としての側面では、ビザンティン建築の様式や要素を現代の建物に取り入れる試みも積極的に行い、1931年に完成したアテネの聖ディオニュシオス・アレオパギテス教会をはじめ、約50もの教会建築に関わりました。

学術教育においても、オルランドスは重要な足跡を残しています。アテネ工科大学では、1919年から1940年まで構造工学の正教授として教鞭を執り、さらに1943年から1958年には建築史を教えました。また、アテネ大学では1939年から1958年までビザンティン考古学の正教授を務めるなど、長年にわたり次世代の研究者や建築家の育成に尽力しました。

国内外の学術界における彼の貢献と名声は高く、数多くの科学アカデミーや学会のメンバーとなりました。特に1926年には、ギリシャの中央科学機関であるアテネアカデミーの設立に共同で関わり、1946年から1956年には書記、1950年には会長を務めるなど、アカデミーの中心人物として活動しました。また、ギリシャの歴史と民族学協会、キリスト教考古学協会、ビザンチン研究協会といった重要な学術団体の運営にも深く関与しました。これらの功績に対し、1947年にはフランス政府よりレジオンドヌール勲章のシヴァリエを、1968年にはウィーン大学よりヘルダー賞を授与されるなど、国際的な評価も得ています。1951年からはその死去まで、アテネ考古学協会の会長としてギリシャ考古学界を牽引しました。アテネアカデミーは、彼の業績を称え、1965年、1968年、そして1978年に記念出版物を刊行しています。

オルランドスの学術的な貢献は多岐にわたります。彼の最も重要な著作の一つに、1937年から1973年にかけて全12巻が刊行された壮大な『ギリシャのビザンティン建築のアーカイブ』（Αρχείον των βυζαντινών μνημείων της Ελλάδος.）があります。これはギリシャにおけるビザンティン建築研究の基礎となる文献です。他にも、古代ギリシャの建築材料とその技法に関する研究や、木造屋根を持つ初期ビザンティン教会の詳細な調査などを行いました。彼の活動範囲は古代から現代に至るギリシャのすべての文化財に及び、考古学者としてだけでなく、保全・修復の専門家としても類まれな能力を発揮しました。実践と学問を見事に融合させた彼のスタイルは、後進の研究者にも大きな影響を与えました。1958年に教育と史跡保護の第一線から退いた後も研究活動を続け、1979年に91歳でアテネにて逝去しました。

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