アビタン

アビタン（Habitants）

アビタンとは、17世紀から20世紀初頭にかけて、北米のフランス植民地「ヌーベルフランス」で農業に従事した人々を指す言葉です。特に、現在のカナダ・ケベック州を流れるセントローレンス川沿岸地域に居住し、フランス本土出身またはその移民を祖先とする農民たちが自らをこう呼び、当時の社会階層においても広く認識されていました。しかし、20世紀に入るとこの呼称は次第に廃れ、「農民（agriculteur）」や「農産物生産者（producteur agricole）」といった、より一般的な言葉に置き換わっていきました。

領主との関係と土地制度

アビタンの社会的な位置づけは、領主（seigneur）との関係によって深く規定されていました。領主の多くは、フランスから渡ってきた貴族や聖職者で、広大な領地（荘園）を所有していました。この土地制度は「セニュール制」と呼ばれ、上層階級が領地を支配する、ある種の封建的な構造を形成していました。領地の経済的基盤は、主にアビタンによる開墾と耕作によって築かれました。フランス国王ルイ13世の定めた土地に関する規則では、土地が一定期間内に開墾されない場合に罰金が課せられることが定められていたため、領主は土地をアビタンに貸し下げ、開拓を促しました。

土地の利用権を与えられたアビタンは、様々な義務や税金に服することに同意する必要がありました。最も重要な義務の一つは、領主への賃貸料の支払いでした。これは金銭や農作物、あるいは労働によって行われましたが、一度定められた賃貸条件は、たとえ物価が上昇したり時代が変化したりしても、原則として変更できませんでした。一方、領主がアビタンに対して負う義務は限定的でした。領主は借地人のために製粉所を建設する義務がありましたが、アビタンはその製粉所で収穫物を挽き、その量の14分の1を領主への使用料として納めなければなりませんでした。また、領主は特定の時期の賦役（コルヴェ）や、漁業・林業・共同放牧地の利用に関する権利を要求することも可能でした。しかし、これらの義務を履行する限り、アビタンは事実上その土地の所有者と見なされ、自身の子供に土地を相続させる権利も認められていました。フランス統治末期には、領主の要求が強まる傾向も見られましたが、アビタンは農奴ではなく自由民であり、領主は「領地内の生産活動に関する特定かつ限られた権利」を持つに過ぎませんでした。この所有権を巡る両者の間には、しばしば対立が生じました。

農業と暮らし

ヌーベルフランスにおける農地の区画は特徴的で、セントローレンス川に面した細長い長方形の形をしていました。これは「リボン状区画」と呼ばれ、中世ヨーロッパの開拓地で一般的な形態でした。家屋は川沿いに寄り集まって建てられ、当時最も重要な交通手段であった水路へのアクセスを容易にしていました。アビタンの夫婦は領主から土地を借り受け、その開墾から始めました。最初の仕事は、カエデや松などの木々を伐採し、農地を切り開くことでした。切り倒した丸太は住居（ピエス・スール・ピエスと呼ばれる、間口6メートル、奥行き8メートル程度のフレンチカナディアン様式の素朴な小屋）の建設に、残りは燃やされて土地を整地しました。夏の間には1〜2アルパン（約0.34〜0.68ヘクタール）の開墾が可能でした。

アビタンの農場は、キャベツやタマネギなどを育てる菜園、家畜の飼育、自家消費用のタバコ栽培など多岐にわたりました。農場や作物の管理、家畜の世話は主に妻の役割であり、子供たちは成長と共に両親の農作業を手伝いました。農作業には、隣近所や親戚同士が協力し合う「クー・ド・マン」（助け合いの意味）の習慣がありました。収穫作業も家族総出で行われました。懸命な労働の結果、アビタンはほとんどの食料を自分たちの農場で賄う自給自足に近い生活を送ることができました。主な作物は小麦でしたが、ライ麦、カラス麦、大麦、エンドウ豆、トウモロコシなども栽培され、特に小麦、カラス麦、エンドウ豆は換金作物となりました。リンゴやイチゴなども栽培されました。食肉としては豚肉や野生の獣肉が食され、飲み物としてはリンゴ酒やミルクが一般的でしたが、裕福なアビタンの中にはコーヒーや紅茶を飲む者もいました。ヌーベルフランスの気候は厳しいものでしたが、広大な処女地は生産性が高く、18世紀には経済の中心が毛皮交易から農業へと移行していきました。

経済と税金

アビタンの経済活動は、市場での売買よりも家族の生活を維持するための生産、すなわち自給自足に重きが置かれていました。ケベックの市場規模が小さかったため、彼らはむしろ不作に備えた蓄えを重視しました。ヌーベルフランスでは農民が人口の大多数を占めており、1851年にはケベック住民の約7割が農民でした。これは同時代のアメリカ合衆国東部の都市化が進んだ地域と比べると非常に高い比率でした。ケベックの農民が直面した市場規模は、例えばニューヨークの農民の平均と比較して3分の1程度でした。しかし、18世紀に入ると人口が増加し、外部との交易も活発になったことで、アビタンは納税のためや輸出向けに余剰生産を行うようになり、ケベックで生産された作物は他のフランス植民地にも供給されるようになりました。

領主から土地を借り受けるにあたり、アビタンにはいくつかの経済的な義務が課せられました。土地を耕し、作物を生産して生活することが期待され、もし1年以内に土地の一部が耕されない場合、領主は「ドロワ・ド・レユニオン」（再所有の権利）を行使することができました。領主へ支払う税金の種類は様々でした。「サン（cens）」は2ソルから6ソル程度の象徴的な地代でした。土地の賃料（レント、rente）は一般的に1アルパンあたり20ソル程度でした。アビタンが土地を売却する際には、売却額の12分の1に相当する「ロ・エ・ヴァント（lot et vente）」と呼ばれる税を領主に支払う必要がありました。さらに、領主の製粉所で麦を挽く際には、挽いた量の14分の1を、また漁獲量の13分の1（一部）を領主に納める義務もありました。加えて、特定の時期には領主のために無償労働（コルヴェ）を行うアビタンもいました。

家庭生活と教会

ヌーベルフランスのアビタンの家庭生活は非常に賑やかでした。多くの家族は子だくさんで、10人から12人の子供を持つ家庭も珍しくありませんでした。女性は成人してから人生の大部分を、妻としての役割、家事、育児、そして農作業の手伝いに費やしました。当時の社会では結婚が不可欠であり、未亡人となった後も再婚する女性が多く見られました。これは、男性人口が女性人口を大きく上回っていたため、女性に夫を選ぶ有利な状況が生まれ、見合い結婚が少なく、自由な結婚が比較的可能だったことも背景にあります。

教会はアビタンの生活において中心的な役割を担いました。教区は管轄地域内のすべての出生、結婚、死亡の記録を管理し、これらの人生の節目において宗教的な儀式が執り行われました。教区は人口増加と土地の開墾に伴い発展し、アビタンは自分たちの教区に教会堂と司祭館を建設するために土地を提供するなど貢献しました。教会は単なる礼拝の場にとどまらず、地域の集会所や親睦の場としても機能しました。特に日曜日のミサは、アビタンにとって信仰の場であると同時に、隣人や友人との情報交換や交流を図る貴重な機会でした。

土地相続の慣習

アビタンの土地相続に関しては、フランス本土の「パリ慣習法」が適用されました。この慣習法では、両親の所有地は子供たち全員に平等に分割相続されることが原則でした。ただし、これは文字通り土地を物理的に細分化することを強制するものではなく、様々な方法で適用されました。例えば、兄弟姉妹の一人が他の相続人の共有持分を買い取る、あるいは共有地として利用しながら特定の者が管理するといった形式が取られました。また、開墾可能な未開墾地が豊富にあった地域では、結婚した子供たちがその地を開墾することを条件に、領主から新たな土地の使用権を与えられることもありました。跡取りはしばしば最年少の子が務め、結婚の際に両親の土地を引き継ぎ、それ以外の子供たちは他の土地を開墾したり、財産分与を受けたりしました。このパリ慣習法は、現在のケベック州の民法典の基礎となっています。

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