アフォーゴモンの鎖

『アフォーゴモンの鎖』（原題：英: The Chain of Aforgomon）は、アメリカ合衆国の幻想文学作家クラーク・アシュトン・スミスによる短編ホラー小説です。1935年12月号のパルプ雑誌『ウィアード・テールズ』に掲載されました。舞台は発表当時の現代（1933年）であり、同じ年に発表された『ウボ＝サスラ』と同時期の作品にあたります。邦訳版の紹介文では、「異様な最期を迎えた作家が遺した日記が明らかにする、神に背き禁断の秘術を用いた神官の物語」と評されており、その内容はクトゥルフ神話の要素とも関連付けられ、同名のテーブルトークRPGにも導入されています。

あらすじ

物語は1933年、インドシナからサンフランシスコへ帰国した作家ジョン・ミルウォープの奇怪な死から始まります。長編小説を書き終え、タイプを打ち終えた直後の出来事でした。彼の書斎から、まるで燃え盛るかのような強烈な光が放たれた朝、駆けつけた家政婦は信じがたい光景を目にします。主人の亡骸の傍らで、「深淵の幻影」や全身に巻き付く「純白の炎」のような幻覚を目撃したのです。遺体は、衣服には何の損傷もないにもかかわらず、全身に「熱い鎖が絡みついたかのような」おぞましい火傷を負っていました。体内からは未知の薬物が検出されましたが、その化学成分は判明しません。

ミルウォープから遺著管理人に指名されていた「ぼく」は、彼の遺作を編集者へ売り込もうとしますが、驚くほど困難に直面します。つい数ヶ月前まで人気作家であったミルウォープの名前と著作が、あまりにも早く人々の記憶から薄れていくことに、「ぼく」は不可解な感覚を覚えます。この信じがたい事件全体も、次第に世間の関心を失い、ミルウォープを知る人々さえ彼のことを忘れ始めます。第一発見者である家政婦の記憶でさえ曖昧になり、証言は矛盾するようになります。

ミルウォープの日記が「ぼく」に託されますが、そこには不可解な現象が起きていました。インクが奇妙にかすれて読み取れない箇所があり、未知の文字で記された部分も存在したため、内容は欠落しがちでした。「ぼく」は慌ててその日記を書き写し、ミルウォープの死に隠された謎を解き明かすべく、日記の全文を一つの小説として世に問うことを決意します。

日記に記された秘密

ミルウォープの日記は、彼が己の前世を朦朧と追い求め、東洋のオカルトや神秘主義を探究していたことを明かします。やがて彼は、「秘薬スーヴァラ」という前世の記憶を取り戻せるという真珠色の顆粒を含む灰色の粉末を入手します。しかし、服用に葛藤し、七ヶ月が経過した1933年3月9日、ついに彼は決心して薬を飲みます。すると、彼の意識に幾つもの前世の光景が流れ込んできます。時間を遡るにつれて、彼は戦士、吟遊詩人、貴族、商人、托鉢僧など、様々な人物としての生を体験します。しかし、探求はそれだけにとどまりませんでした。人類の黎明期をさらに遡り、地球が創造される以前の深淵なる闇をも超え、ついには遠い宇宙に存在する四つの太陽を持つ惑星ヘスタンの大都市カルードへと到達します。そこで彼は、アフォーゴモンの神官カラスパになっていたのです。ミルウォープの意識はカラスパの存在を認識しますが、カラスパ自身は未来にいるミルウォープを知覚しません。

3月13日、ミルウォープは自らの前世であるカラスパについてさらに深く探るため、再び秘薬スーヴァラを用います。しかし、日記は「赤い霊体の1009年オッカラト月の第2日、第4日、第6日、3月29日、第18日」という奇妙な記述で途絶えてしまいます。

カラスパの悲劇

日記の後半は、おそらくミルウォープが前世体験として追体験した、神官カラスパの手記と思しき内容が記されています。カラスパは愛する恋人ベルトリスの死に深く絶望していました。自分が仕える時間神アフォーゴモンは全能であるはずなのに、最愛の女性が死んでも何もせず、冷酷な時がただ流れていく様を見て、彼は神に裏切られたと感じます。カラスパは禁忌の妖術に手を出すことを決意し、降霊術師アトモクスに協力を依頼します。

アトモクスは、それは時間神アフォーゴモンへの冒涜であり、しかも奪い返せるのはベルトリスと過ごした愛の時の全てではなく、たった「一時間」だけだと警告し、カラスパを止めようとします。しかし、カラスパの決心は固く、アトモクスはついに諦めざるを得ませんでした。カラスパはアフォーゴモンの祭壇を汚し、自分の血を捧げ、アフォーゴモンに対抗する邪悪な魔神クセクサノス（「隠れた混沌」とも呼ばれる）への呪文を唱え、ベルトリスと過ごした昨年秋の一時間を取り戻したいと願います。

儀式の結果、時間が巻き戻され、カラスパの目の前には生きたベルトリスが現れます。カラスパは再会を喜び、彼女に花を贈ります。二人が愛の時間を過ごしている最中、一羽の羽を痛めた蛾が飛んできて落ちます。哀れみ深いベルトリスはカラスパから離れて蛾を拾い上げ、もう飛べないことを知ると悲しみに暮れます。カラスパが元気づけようとしても彼女は受け入れません。カラスパは、召喚したはずの尊い一時間が蛾によって損なわれたことに苛立ちを感じ、この再会が虚しいものになったと感じます。彼は二重の喪失感を味わいながら、元の時間へと戻ります。

カラスパが禁忌の儀式を行った結果は、彼自身だけにとどまりませんでした。惑星ヘスタンのあらゆる存在が、昨年の秋の一時間を再体験したのです。この異常な出来事に人々は驚愕し、その意味を理解できません。カラスパが時間の理を歪めたことで、世界の摂理は狂ってしまったのです。時の流れに前代未聞の混乱が起こったため、カルードの民はアフォーゴモンが激怒し、破滅が迫っていると信じ込み、狂気と混沌が街中に広がります。カラスパに協力したアトモクスもまた、彼が使役していた悪霊（未来を知る魔物だが、カラスパの禁術で拘束が緩み制御不能となった）に惨殺されてしまいます。

やがて、アフォーゴモンに仕える他の神官たちが現れ、大罪を犯したカラスパを捕らえて投獄します。裁判が開かれ、大神官ヘルペノルが時間神アフォーゴモン自身を口寄せ、カラスパに裁きを宣告します。その裁きとは恐ろしいものでした。カラスパ自身の罪の代償として、彼のあらゆる転生体が、人生の半ばでカラスパと同じ苦痛、すなわち「炎の鎖」に灼かれるような死を迎え、さらにその存在が周囲の人々からすぐに忘れ去られるという運命を背負うというものでした。

カラスパは特殊な鎖で拘束され、アフォーゴモンの霊が棲まうとされる深淵の淵に座らされます。この時、未来のミルウォープの意識はカラスパと一体化します。カラスパは、別の世界で誰かが自分の言葉を書き記していることを漠然と察知しますが、その人物の名前を思い出すことはできません（これが語り手「ぼく」であることは明らかです）。そして、深淵から眩い輝きが現れ――その輝きは、遠い未来のミルウォープをも捉えます。アフォーゴモンの鎖は白熱し、カラスパだけでなく、時間を隔てたミルウォープをも苛み、彼らの存在を時間の流れから抹消していくのです。

この物語は、時間を操ろうとする傲慢さへの宇宙的な罰と、存在が忘れ去られることの恐怖を描き出しており、クラーク・アシュトン・スミスの筆致による独特な幻想ホラーの世界観を堪能できる作品です。

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