ウボ＝サスラ

クラーク・アシュトン・スミスと『ウボ＝サスラ』：コズミック・ホラーの深淵

クラーク・アシュトン・スミスによって1933年に発表された『ウボ＝サスラ (Ubbo-Sathla)』は、クトゥルフ神話における重要な作品の一つです。この小説は、同名の太古の生命体、あるいは神格であるウボ＝サスラを題材としたコズミック・ホラーであり、幻想的な世界観と、現実世界との重なりによって独特の恐怖を描写しています。

1933年ロンドンと太古の地球：時空を超えた物語

物語は1933年のロンドン、骨董品店から始まります。オカルト研究家のポール・トリガーディスは、奇妙な水晶を購入します。この水晶こそ、後に「エイボンの書」に記された「ゾン・メザマレックの水晶」であることが判明します。水晶を凝視したトリガーディスの意識は、古代の魔術師ゾン・メザマレックへと繋がるのです。ゾン・メザマレックは、ウボ＝サスラが持つ神々の知恵が刻まれた銘板を手に入れるべく、時空を超えた旅に出ます。

トリガーディス＝メザマレックは、遙か過去へと遡り、ハイパーボリア以前、地球誕生の混沌へと至ります。そこは、無定形の生命体、ウボ＝サスラが全ての生命の原型となる単細胞生物を生み出していた時代です。しかし、悲願である銘板を目前にした彼（トリガーディス＝メザマレック）は、原初の生物と融合し、知性と自我を失ってしまうのです。この出来事は、「エイボンの書」にも記録され、トリガーディスの失踪は新聞記事にも掲載されることになるのです。

ウボ＝サスラ：地球最古の旧支配者

ウボ＝サスラは、クトゥルフ神話において、地球最古の旧支配者、あるいは外なる神とされる存在です。無定形の姿で、分裂によって新たな生命を生み出し続けるウボ＝サスラは、「自存する源」とも呼ばれ、他の存在から生まれたのではなく、自ら存在し、生命の源泉となっています。クトゥルフやツァトゥグァといった他の旧支配者が地球外から到来する以前から存在し、全ての生命が最終的にはウボ＝サスラへと回帰すると予言されています。

ウボ＝サスラを巡る解釈は様々です。スミス自身によって創造されたオリジナルの神格であるため、ラヴクラフトの旧支配者とは異なる存在と捉えることもできます。また、フランシス・レイニーによるクトゥルフ神話の体系化においては、旧支配者とは別の存在として位置づけられました。一方で、ダーレスはウボ＝サスラを旧支配者の祖とし、リン・カーターはアザトースと同格の存在、あるいは双子と考えるなど、複数の解釈が存在します。

特にリン・カーターは、ウボ＝サスラの設定を大きく再解釈し、旧神が管理するセラエノ大図書館から銘板を盗んだとするなど、独自の解釈を提示しました。この盗みは、旧神と旧支配者たちの争いの発端となったとされています。

アブホースとの関係

アブホース (Abhoth) は、スミスによって創造されたもう一つの重要な神格で、「宇宙の不浄すべての母にして父」という異名を持ちます。ウボ＝サスラとアブホースは、その性質や役割に共通点が多く、同一視されることも少なくありません。しかし、スミス自身の作品においては、両者は明確に区別されており、特にウボ＝サスラには知性がなく、アブホースには知性があるとされています。

リン・カーターはアブホースをウボ＝サスラの別名として解釈する一方、別の作品ではウボ＝サスラの子として位置付けるなど、解釈が一定していません。リチャード・L・ティアニーの詩篇では、ウボ＝サスラの人類からの異称をアブホースとする記述も見られます。これらの多様な解釈は、ウボ＝サスラとアブホースの神秘性をより一層深めています。

『ウボ＝サスラ』の遺産

『ウボ＝サスラ』は、その独特の世界観と、旧支配者ウボ＝サスラという神秘的な存在によって、クトゥルフ神話において重要な位置を占めています。後続の作家たちにも多大な影響を与え、様々な解釈を生み出してきたこの作品は、コズミック・ホラーの魅力を余すことなく伝える、不朽の名作と言えるでしょう。様々な翻訳版が存在するのも、その魅力を物語っています。

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