アブラヤシ

アブラヤシ（油椰子、学名：Elaeis）は、ヤシ科アブラヤシ属に分類される植物の総称で、一般にパームヤシとも呼ばれています。アブラヤシから採取される植物油はパーム油として知られ、熱帯地域において重要な換金作物となっています。

主に知られているのは、西アフリカ原産のギニアアブラヤシ（Elaeis guineensis）と、中南米原産のアメリカアブラヤシ（Elaeis oleifera）の2種類です。ギニアアブラヤシは、古くから中部アフリカの熱帯雨林地帯で広く栽培されており、単にアブラヤシという場合は、通常この種を指します。一方、アメリカアブラヤシは、Corozo属に分類されることもあります。

中南米ではヤシ科植物の多様性は高いものの、アフリカ大陸や東南アジアに比べてヤシ科植物の栽培利用文化は発達しませんでした。しかし、アメリカアブラヤシは中南米熱帯域において例外的に利用文化が発達した植物です。

アブラヤシの成木は、単一の幹から高さ20mに達し、葉は羽状で長さ3-5m程度になります。若木では年間約30枚、樹齢10年以上の木では約20枚の新しい葉が生えてきます。花は、3枚の花弁と3枚のがく片から構成され、個々の花は小さいですが、密集した集団を形成します。受粉から果実の成熟までには約6ヶ月を要します。果実は鶏卵大で集団をなし、油分の多い多肉質の果肉（中果皮）と、同じく油分に富んだ1つの種子から構成され、重さは1房あたり40-50kg程度になります。

アブラヤシは、その果肉と種子から油脂が採取され、商業作物としてインドネシアやマレーシアを中心に大規模な栽培が行われています。栽培品種の中には、ギニアアブラヤシとアメリカアブラヤシの交配品種も存在します。

栽培

アブラヤシは、果実から得られる油脂を目的として栽培されています。単位面積当たりに得られる油脂の量は植物の中でも非常に多く、今日では、産業的に大規模栽培されたアブラヤシから収穫された果実は、石鹸や食用植物油の生産に使われています。果実の果肉からはパーム油が、種子からはパーム核油が得られます。パーム油とパーム核油は品質が異なり、パーム油は主に調理用、パーム核油は加工食品用として利用されることが多いです。また、アブラヤシの油はバイオディーゼル燃料としての利用も検討されています。換金性の高いアブラヤシは、コプラの原料であったココヤシを駆逐し、急速に栽培面積を増加させており、パーム油の世界生産量は植物油の中で1位となっています。

近代以前の伝統的な栽培地帯である熱帯アフリカの森林地帯では、果肉から得られるカロテノイドを多く含む赤色のパーム油が、古くから食文化に不可欠な食用油として利用されてきました。伝統的な製法では、収穫した果実を数時間煮込み、果肉を水とともに粉砕、攪拌して浮かび上がる脂肪を含む泡を集めます。この泡を鍋で加熱すると、水分が蒸発し、タンパク質などの不純物が沈殿して精製された油が得られます。採油後に残った種子の中身はそのままナッツとして食用にされ、花穂を切って糖液を採取し、発酵させてヤシ酒を作ることもあります。パーム油は、ブラジルでは「アゼーチ・ジ・デンデ」（Azeite-de-dendê）または単に「デンデ」と呼ばれ、ブラジル北東部などのアフリカ料理の影響を受けた伝統料理に欠かせない食材です。

ギニアアブラヤシは、1900年代初頭にスマトラ島とマレー半島に持ち込まれ、現在でも広大なプランテーションが多く存在しています。特にマレーシアでは、アブラヤシのプランテーションは約20,000平方kmに達し、1995年には世界の生産量の51%を占めました。しかし、プランテーションの拡大は天然の熱帯雨林を焼き払って進められたため、著しい環境破壊を招き、この地域での主要な環境問題となっています。一方で、アブラヤシは地域にとって重要な基幹産業でもあります。

アブラヤシの果実の絞りかすは、繊維の強度が高いため、これを用いて紙を作る技術が中国などで実用化されつつあります。

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