アブ・ガルシア

アブ・ガルシア（ABU Garcia）は、スウェーデンを代表する総合釣具メーカーであり、世界中の釣り愛好家から絶大な支持を得ています。特に、そのリールの代表作である「アンバサダー」(Ambassadeur)シリーズは、高い品質と性能で知られ、同社の主力商品として長く愛されています。通称「アブ」として親しまれています。

創業と初期の事業

1921年、アブ・ガルシアの前身であるABウルファブリケン社(AB Urfabriken)は、スウェーデンのスヴェングスタ(Svängsta)で創業しました。創業者はカール＝アウグスト・ボルイストレム(Carl-August Borgström)で、社名は彼の頭文字であるABと、時計工場を意味するUrfabrikenを組み合わせたものです（ABはスウェーデン語で株式会社(Aktiebolag)の略称であるという説もあります）。創業当初、同社は懐中時計や電話度数計の製造を行っていました。

1926年には、タクシーメーター「Record」の販売を開始し、これが事業の大きな転換点となりました。この「Record」は非常に好評で、同社の経営を安定させる原動力となりました。しかし、1934年にカール＝アウグストが死去すると、事業は息子のイエテ(Göte Borgström)に引き継がれます。

釣具メーカーへの転身

「Record」の販売は好調でしたが、1939年に第二次世界大戦が勃発し、自動車の交通規制が敷かれると、タクシーメーターの需要は激減してしまいました。この状況を打開するため、元々釣り好きだったイエテは、釣具製造に活路を見出します。1941年、同社初のベイトキャスティングリールとして、かつてのタクシーメーターと同じ名前である「Record」を発売しました。このリールは、高い性能と耐久性でたちまち人気を博し、アブ・ガルシアが釣具メーカーとしての地位を確立するきっかけとなりました。

1952年には、現在でも同社の看板商品である「アンバサダー」シリーズの初期モデル「No.5000」が発売されました。この「アンバサダー」は、「大使」を意味する名前が示すように、同社のフラッグシップモデルとして、世界中の釣り人に愛されています。リール左側に見えるエンブレムは「スウェーデン王室御用達」のマークであり、1951年から製品に付けられています。

アメリカ進出とガルシア社との合併

アメリカ合衆国でのリール販売を開始すると、ABウルファブリケンはABU（アブまたはエイブー）と略称されるようになりました。1954年には、ニューヨークに拠点を置く輸入業者ガルシア社が「アンバサダー」の全米での販売権を取得しました。ちなみに、ガルシア社はフランスのミッチェル社のリールの販売権を1949年に取得しており、1960年には米NARMCO社を買収してロッド製造にも乗り出しています。

1979年、アブはガルシア社の倒産に伴い、アメリカでの販路を確保するために、ガルシア社を吸収合併しました。そして、1983年に正式にアブ・ガルシア社となりました。1995年には、ピュアフィッシング社に買収され、現在ではリールだけでなく、釣竿やルアー、釣用アクセサリーなど、幅広い釣具製品を製造・販売しています。

日本での展開

日本においては、エビスフィッシングがアブと正式に輸入代理店契約を結んだ最初の企業です。作家・開高健の著書『フィッシュ・オン』にアブのリールが掲載されたこともあり、日本国内でアブの知名度は一気に高まりました。エビスフィッシングとの契約は1988年まで続き、その後、オリムピック（後のマミヤ・オーピー）に引き継がれました。しかし、2000年にマミヤ・オーピーが釣具事業から撤退したため、その後はピュアフィッシングがM&Aによりアブ・ガルシア社のオーナーとなり、2000年からはピュア・フィッシング100%子会社の日本法人である「ピュア・フィッシング・ジャパン」が国内での販売を行っています。

アブ・ガルシアは、創業から今日まで、常に革新的な技術と高品質な製品を提供し続け、世界中の釣り人から信頼されるブランドとして、その地位を不動のものとしています。その歴史は、釣具業界の発展とともに歩んできたと言えるでしょう。現在も、アブ・ガルシアは、最新技術を取り入れながら、常に釣り人のニーズに応えるべく、新たな製品開発に力を注いでいます。

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