アブー＝ターリブ

アブー＝ターリブの生涯とイスラームにおける役割

アブー＝ターリブ（أبو طالب بن عبد المطلب、549年 - 619年）は、クライシュ族に属する商人であり、イスラーム教の提唱者ムハンマドの叔父であり、育ての親として知られています。アブー＝ターリブはムハンマドの人生において非常に重要な役割を果たし、イスラーム最初期における顕著な人物の一人と見なされています。彼は父がアブド・アル＝ムッタリブで、息子には第4代正統カリフのアリーがいます。

アブー＝ターリブは生涯イスラーム信仰に入ることはありませんでしたが、彼はハーシム家の当主としてムハンマドに対して力強い支援を提供し続けました。ムハンマドは両親を幼い頃に失い、祖父であるアブド・アル＝ムッタリブに育てられました。しかし、祖父が亡くなった後、ムハンマドは叔父アブー＝ターリブのもとに引き取られました。アブー＝ターリブは甥を非常に可愛がり、彼の成長を見守ることに尽力しました。具体的には、彼は砂漠を行く商隊に同行させ、夜には常にそばで寝かせて育てました。

アブー＝ターリブは家族を大切に思う人柄でしたが、晩年には大家族のために家業は衰退し、財政的に苦しい状況に直面しました。そのような経済的背景の中、ムハンマドが生活が安定した後、アブー＝ターリブの息子アリーを養子に迎えたのは、彼の家計を助けるためでもあったと考えられています。

アブー＝ターリブはイスラームの信仰告白を一度もすることなく生涯を終えました。しかし、彼の死を看取った親族アル＝アッバースによると、彼は最後に信仰告白を試みたとされていますが、その声はムハンマドには届きませんでした。クルアーン第28章56節では、人の信仰は他者によって変えられないと説かれていますが、スンニー派の見解では、これはアブー＝ターリブが不信仰のままで亡くなったことを示すとされています。

一方で、アリーを支持するシーア派は、アブー＝ターリブをムスリムであると認識しています。シーア派は彼の信仰告白の真実性を重視し、過去の預言者との血縁や、ムハンマドの婚儀における祝詞などを根拠に挙げています。

アブー＝ターリブが亡くなった後、ムハンマドはメッカの有力者から「お前の育ての親は今どこにいるのか？」と尋ねられた際、「地獄にいるが、彼のためにより穏やかな場所に行けるかもしれない」と答えたというエピソードが残されています。イスラーム教義によれば、多神教を奉じる人々は地獄に堕ちるとされており、たとえ恩人であっても便宜を図ることはできなかったと考えられています。このような理由から、ムハンマドは期待される支援を受けることができず、より厳しい状況に追い込まれました。

アブー＝ターリブの生涯は、彼の家族やイスラーム教、そしてムハンマドの人生に深い影響を与えました。彼の存在はムハンマドが教えを広める上での支えとなり、イスラームの歴史において彼が果たした役割は、今もなお多くの人々によって記憶されています。

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