アプトン・シンクレア

アプトン・シンクレア（Upton Sinclair, 1878年9月20日 - 1968年11月25日）は、アメリカ合衆国の小説家であり、社会主義活動家としても知られています。彼の作品は、社会の不公正や貧困問題を鋭く描き出し、大きな社会的反響を呼びました。

生い立ちと教育

シンクレアはメリーランド州ボルチモアで、南部の上流階級の家庭に生まれました。父方の家系は軍人の家柄で、曾祖父は米英戦争で活躍したアーサー・シンクレア准将、祖父も海軍大佐でした。しかし、南北戦争後の経済的困窮により、シンクレアは富裕層と貧困層の両極端を体験することになります。アルコール依存症の父親と貧しい暮らしを送る一方で、ニューヨークに住む裕福な親戚の家に滞在することも多く、アメリカ社会の二面性を幼少期から目の当たりにしました。

彼はニューヨーク市立大学シティカレッジに進学し、学費を稼ぐために雑誌や新聞にジョークやフィクションを執筆するようになりました。その後、コロンビア大学の大学院にも進んでいます。

社会主義活動と『ジャングル』

シンクレアは、社会主義的な視点から社会問題に取り組むようになり、その活動の中で代表作である『ジャングル』を1906年に発表しました。この小説は、シカゴの食肉加工工場の劣悪な労働環境や非衛生的な実態を暴露し、アメリカ社会に衝撃を与えました。その結果、食品安全に関する法改正、食肉検査法の制定に大きく貢献しました。

『ジャングル』の出版後、シンクレアは同書の売り上げを基にニュージャージー州にヘリコン・ホーム・コロニーというユートピア共同体を設立しましたが、残念ながら火災で焼失してしまいます。彼は政治活動にも関与し、カリフォルニア州知事選に二度出馬しました。最初はアメリカ社会党から、二度目は民主党から立候補しましたが、当選には至りませんでした。

主な著書

シンクレアは生涯にわたって数多くの小説や社会評論を執筆しました。

『春と収穫』（Springtime and Harvest, 1901年）
『ジャングル』（The Jungle, 1906年）
『石炭王』（King Coal, 1917年）
『ブラス・チェック』（The Brass Check, 1919年）
『百パーセント愛国者』（100% - The Story of a Patriot, 1920年）
『スパイ』（The Spy, 1920年）
『人われを大工と呼ぶ』（They Call Me Carpenter, 1922年）
『黄金時代』（The Millennium, 1924年）
『拝金芸術』（Mammonart, 1925年）
『金が書く』（Money Writes!, 1929年）
『石油！』（Oil!, 1927年）
『ボストン』（Boston, 1928年）- サッコ・ヴァンゼッティ事件を題材にした小説

これらの作品は、様々な社会問題を扱いながら、社会主義的な視点から資本主義社会の矛盾を批判しています。

日本での影響

シンクレアの作品は日本にも紹介され、社会主義運動や文学に影響を与えました。『ジャングル』は幸徳秋水によって日本で初めて紹介され、彼の著作を通して、シンクレアの社会批判的な思想が日本にも伝わりました。木村毅の著書によると、シンクレアは木村の訪問時に幸徳秋水のことを「同志と共に死刑になった男」と語り、幸徳が『ジャングル』の紹介者であることを知っていたというエピソードが残っています。

シンクレアの作品は、日本でも多くの翻訳が出版され、社会問題を考える上で重要な役割を果たしました。

アプトン・シンクレアは、その生涯を通じて社会正義を追求し、不公正な社会構造に立ち向かった人物です。彼の作品は、現代においても色褪せることなく、私たちに深い問いを投げかけ続けています。

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