アポジキックモーター

アポジキックモーターについて

概要

アポジキックモーター（Apogee Kick Motor, AKM）は、人工衛星を最終軌道に乗せるための重要な推進装置です。一般に、アポジモーターと呼ばれることもあります。これは、衛星やロケットの上部に取り付けられ、遷移軌道から円軌道へと移行するために使用されます。この噴射は主に遠地点で行われ、静止軌道への投入を実現します。

具体的な例を挙げると、人工衛星を静止軌道に投入する際は、まず低高度の円軌道に打ち上げ、次にロケットの上段で楕円軌道に遷移し、最終的にアポジキックモーターを用いて静止軌道に移動させます。このプロセスでは、ロケットの打ち上げ基地（たとえば種子島）から発射される場合、打ち上げ角度により軌道面が傾くことがあるため、軌道変更も同時に行われます。

推進装置の種類

アポジキックモーターには主に固体燃料モーターと液体燃料エンジンがあります。1980年代中頃までは固体燃料が主に使用されていましたが、近年では液体アポジエンジンの採用が増えています。小型衛星においては、今でも固体アポジモーターが利用されていることがあります。

固体モーターは1回の噴射で一気に静止軌道まで投入できるため、高い推力を持っており、噴射時に衛星の姿勢を回転させる必要があります。一方、液体アポジエンジンは、複数回に分けて噴射しながら徐々に軌道を高くします。これにより衛星が安定した姿勢を保ちやすく、太陽電池の展開や発生電力の確保が容易になります。したがって、大型衛星では通常液体アポジエンジンが選ばれます。

例えば、種子島から静止衛星の打ち上げを行う場合、アポジキックモーターに必要な推進剤の質量は、ほぼ静止軌道に投入するための質量と同等になります。このため、衛星にこの装置を搭載することで、衛星本体の質量の約2倍の打ち上げ能力が必要となります。

姿勢および軌道制御との関連

このモーターは、最終的な軌道へ向けての軌道変更に不可欠です。アポジキックモーターは軌道の変更を行うために大きな力を必要としますが、衛星の姿勢制御に関しては、比較的小さな推力で済むことが一般的です。このため、姿勢制御には、モーメントを調整するスラスターやモーメンタムホイールなどが使用されます。

また、アポジキックモーターを搭載した衛星が軌道に乗った後に、その推進剤を利用して軌道を変更する例もあります。逆に時には、他の装置を使用して静止軌道への遷移を果たすこともあります。例えば、「あかつき」は非常事態時に姿勢制御用のスラスターを用いて軌道を変更しました。

ガンダムシリーズとの関連

アポジという言葉は、著名なアニメ「ガンダム」シリーズでも用いられていますが、ここでは誤用されていることが多いため注意が必要です。アポジモーターが本来示す「姿勢制御用のバーニアスラスター」とは異なり、作品内ではこの用語が不適切に引用されることがあります。著作物では、この混同が行われた結果、姿勢変更のための装置をアポジモーターと呼ぶ習慣が生じています。

アポジキックモーターは、人工衛星の運用において非常に重要な要素であり、衛星設計や軌道制御の自由度を大きく向上させる役割を果たしています。

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