アポロの杯

アポロの杯

『アポロの杯』は、著名な作家三島由紀夫が1951年から1952年にかけて行った約4か月半の世界一周旅行を記した旅行記です。この作品は、三島が生涯で最初に経験した海外旅行の記録であり、その内容は「航海日記」「北米紀行」「南米紀行―ブラジル」「欧州紀行」「旅の思ひ出」という5つの部分に分かれています。

旅行の背景

三島が旅行を行った当時の日本は、GHQに占領されており、一般市民の海外旅行はほぼ禁止されていました。しかし、三島は朝日新聞社の特別通信員としての資格を得ることに成功し、特別に渡航許可を受けました。この旅行は三島にとって、自己を高め、作家としての成長を促す契機となり、彼の文学世界に根本的な変化をもたらしました。

旅行の経過

旅行は1951年のクリスマスから始まり、旅の出発地は横浜港です。客船「プレジデント・ウィルソン号」に乗り込み、ハワイを経由して北米、南米、ヨーロッパへと足を延ばす旅程でした。ハワイでは、明るい色彩の自然や特異な文化を体験し、サンフランシスコでは歴史を感じる日本料理店の現実に衝撃を受けます。ニューヨークでは、オペラや美術館巡りを楽しみつつ、都市の多様性についての考察を深めていきました。

さらに、ブラジルではリオ・デ・ジャネイロの華やかなカーニバルに参加し、その賑やかな雰囲気を堪能しました。特にリオの風景は、幼少期の記憶や故郷の風景を呼び起こし、強い既視感を抱かせました。

ギリシャとの邂逅

旅行のハイライトの一つは、三島が憧れていたギリシャでの体験です。彼はアクロポリスやパルテノン神殿を訪れ、これまでに触れたことのない文化と精神の在り方に感銘を受けました。三島は古代ギリシャの美と精神に触れることで、自身の作品に対するアプローチを見直し、新しい視点を持つきっかけを得たのです。

作品の意義

『アポロの杯』は単なる旅行記であるだけでなく、三島の作家としての成長を遂げた重要な物語です。また、彼が見た世界は、流動的に変わってゆく日本の現在と過去の記憶を重ねあわせた複合的なものであり、そこには変転する歴史の一部としての側面も見て取れます。

この旅行記は1952年から1954年にかけて、様々な文芸雑誌で連載され、後に単行本としてまとめられました。内容は、三島の心象風景や歴史観、受けた影響を色濃く反映しており、後の彼の作品にも多大な影響を及ぼしました。

まとめ

『アポロの杯』は、三島由紀夫が旅を通して自己を見つめ直し、作家として生きるための決意を固めた記録です。この作品は彼の文学の原点ともいえるものであり、後の彼の作品へと続く道筋を探るための重要な資料となっています。

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