アポロ賞

アポロ賞 (Prix Apollo)

アポロ賞（Prix Apollo）は、1972年から1990年にかけて、フランスで刊行された優れたサイエンス・フィクション（SF）作品に贈られていた権威ある文学賞です。約20年間にわたり、フランスSF界の発展と海外作品の紹介に重要な役割を果たしました。

設立と目的

この賞は、フランスのSF評論家であり歴史家でもあるジャック・サドゥールと、編集者であるジャック・ゴワマールによって1972年に設立されました。その目的は、フランス国内で出版されたSF作品の質を高め、読者に優れた作品を紹介することにありました。

対象作品とその特色

アポロ賞の最も際立った特色の一つは、その選考対象にありました。フランス人作家によるオリジナル作品はもちろんのこと、フランス語に翻訳されてフランス国内で出版された海外のSF作品も等しく審査の対象とされました。この方針により、フィリップ・K・ディック、ロジャー・ゼラズニイ、ジョン・ブラナー、フレデリック・ポールといった、当時の英米圏をはじめとする世界の優れたSF作家の作品がフランスの読者に紹介され、高い評価を得る機会が生まれました。これは、閉鎖的になりがちな国内文学市場において、国際的なSFの潮流を取り込む上で非常に重要な意義を持ちました。

賞の歴史と終焉

1972年に最初の授与が行われて以来、毎年一作品が選ばれました。設立者の一人であるジャック・サドゥールは、その著書『現代SFの歴史』（日本語訳版は早川書房より刊行）の中でも、アポロ賞に言及し、フランスにおけるSFの発展におけるその位置づけを示しています。しかし、残念ながらアポロ賞は1990年の授与をもって終了し、約20年の歴史に幕を下ろしました。

後継の賞への影響

アポロ賞の消滅後、その果たした役割、特に海外翻訳作品を対象とするというコンセプトは、他の賞に引き継がれることになります。1974年に設立されていたフランスSF大賞（Grand prix de la science-fiction française）は、1992年にイマジネール大賞（Grand Prix de l'Imaginaire）と改称し、従来の対象分野に加えて、新たに外国作品部門を設けることで、アポロ賞が切り拓いた海外作品評価の道を継承しました。これは、アポロ賞がフランスSF界に残した影響の大きさを示すものです。

歴代の主な受賞作

アポロ賞は、その短いながらも重要な歴史の中で、多くのSF史上に名を残す傑作を選出してきました。以下に、その代表的な受賞作の一部を年代順に示します（カッコ内は、海外作品のフランス語訳題です）。

1972年：ロジャー・ゼラズニイ - "Isle of the Dead" (L'île des morts)
1973年：ジョン・ブラナー - "Stand on Zanzibar" (Tous à Zanzibar)
1974年：ノーマン・スピンラッド - 『鉄の夢』 "The Iron Dream" (Rêve de fer)
1975年：イアン・ワトスン - 『エンベディング』 "The Embedding" (L'Enchâssement)
1976年：ロバート・シルヴァーバーグ - 『夜の翼』 "Nightwings" (Les Ailes de la nuit)
1977年：フィリップ・キュルヴァル - 『愛しき人類』 "Cette chère humanité"
1978年：フランク・ハーバート - "Hellstrom's Hive" (La Ruche d'Hellstrom)
1979年：フレデリック・ポール - 『ゲイトウェイ』 "Gateway" (La Grande Porte)
1980年：ジョン・ヴァーリイ - 『残像』 "The Persistence of Vision" (Persistance de la vision)
1981年：ケイト・ウィルヘルム - 『杜松の時』 "Juniper Time" (Le Temps des genévrier)
1982年：スコット・ベイカー - "Symbiote's Crown" (L'Idiot-roi)
1983年：ミシェル・ジュリ - "L'Orbe et la roue"
1984年：セルジュ・ブリュソロ - "Les Semeurs d'abîmes"
1985年：ジーン・ウルフ - 『独裁者の城塞（新しい太陽の書 4）』 "The Citadel of the Autarch" (La Citadelle de l'autarque)
1986年：グレッグ・ベア - 『ブラッド・ミュージック』 "Blood Music" (La Musique du sang)
1987年：ティム・パワーズ - 『アヌビスの門』 "The Anubis Gates" (Les Voies d'Anubis)
1988年：ジョルジュ＝ジャン・アルノー - "La Compagnie des glaces"
1989年：ジョナサン・キャロル - 『死者の書』 "The Land of Laughs" (Le Pays du fou rire)
* 1990年：ジョエル・ウーサン - "Argentine"

評価と影響

アポロ賞は、その存在期間中、フランス国内のSF創作活動を刺激すると同時に、海外の重要な作品を積極的に評価することで、フランスのSF読者の視野を広げることに貢献しました。その遺産は、後継のイマジネール大賞に受け継がれ、フランスにおけるSF文学の評価と普及において、今なおその重要性を語り継がれています。

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