ジョン・ヴァーリイ

ジョン・ヴァーリイ

ジョン・ヴァーリイ（John Herbert Varley, 1947年8月9日 - ）は、アメリカ合衆国を代表するSF作家の一人です。彼の作品は、精緻な科学技術や未来的なガジェットを大胆に取り入れたハードSFとして評価される一方で、人体改造や高度に進化したコンピュータ利用といった設定は、1980年代に隆盛を迎えるサイバーパンクの萌芽を捉えていたとも言われます。また、未来世界を舞台としながらも、作品には発表当時の社会情勢や人間意識が色濃く反映されている点が特徴です。

経歴

テキサス州オースティンに生まれたヴァーリイは、同州フォートワースで育ち、ポートアーサーで高校を卒業しました。国の奨学金を得てミシガン州立大学に進学しますが、これは故郷から最も遠い大学を選んだためだと言われています。当初は物理学を専攻しましたが、後に英語学に転向し、20歳になる前に大学を中退しました。1967年の「サマー・オブ・ラブ」の頃には、サンフランシスコのヘイト＝アシュベリー地区を訪れ、様々な職を転々としながら生活しました。中には教会の施しに頼ったり、物乞いのような経験もあったといいます。その後、作家として生計を立てることを決意しました。1969年には、車の故障で立ち往生した場所の近くで偶然ウッドストック・フェスティバルが開催されており、これに参加する幸運にも恵まれました。その後もオレゴン州やニューヨーク、カリフォルニア州など各地を転々としながら創作活動を続けました。

1974年、『F&SF』誌に発表した短編「ピクニック・オン・ニアサイド」で作家としてデビューを飾りました。初期の数年間は、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞といった主要SF賞に多数ノミネートされながらも受賞には至りませんでしたが、1978年に発表した中長編「残像」でネビュラ賞を受賞。さらに翌1979年には同作でヒューゴー賞とローカス賞を受賞し、史上初のトリプルクラウンを達成したことで、一躍SF界の注目作家となり、その後は数々の賞に輝く常連となりました。

主な作品世界とテーマ

ヴァーリイの初期の長編および多くの短編は、《八世界》（The Eight Worlds）と呼ばれる独自の未来史を舞台としています。この世界観では、2050年に突如現れた異星種族によって、地球上の人類がクジラとイルカ以外の知的生命体と見なされず、ほとんど絶滅寸前に追いやられます。生き残った人類は、「へびつかい座ホットライン」と呼ばれる謎めいた通信ビームがもたらす情報に基づき、人体改造や遺伝子操作を駆使して自らの身体を環境に適応させ、太陽系の様々な場所に散り散りになって進出します。短編集『残像』（1978年発表）の時代において、このような生物学的な進歩によって人類が変容するという洞察は、極めて先駆的かつ啓示的なものでした。同短編集の表題作「残像」はヒューゴー賞とネビュラ賞を受賞し、収録作「汝、コンピュータの夢」はテレビ映画化されています。他にも「選択の自由」や「ブルー・シャンペン」といった短編もテレビドラマ化されるなど、映像化も行われています。

《八世界》シリーズ以外では、土星の衛星テミス上に異星文明が構築した壮大な世界を舞台にしたGaea三部作（『ティーターン』『ウィザード』Demon）があります。これはRPG的な冒険要素を持つファンタジー色の強い作品群です。

ヴァーリイはしばしば、著名なSF作家ロバート・A・ハインラインと比較されます。これは、両者の文体に類似性が見られることや、リバタリアニズム的な思想、あるいは自由恋愛を肯定的に描く傾向などが共通しているためです。《八世界》シリーズに属する『スチール・ビーチ』やThe Golden Globeといった長編には、ハインライン主義的な社会が登場します。特にThe Golden Globeでは、冥王星の流刑地コロニーから発展した社会と、その衛星カロンの社会が描かれ、ハインラインの『月は無慈悲な夜の女王』を彷彿とさせる状況が描かれますが、ヴァーリイが描く社会はよりマフィアやヤクザ的な構造に近い独特の雰囲気を持ちます。

また、ヴァーリイの作品の顕著な特徴として、魅力的な女性キャラクターが多く活躍することが挙げられます。男性ハードSF作家としては非常に珍しい傾向とされており、《八世界》では性転換が日常的に行われている社会を描写するなど、多様な性的テーマを臆することなく作品に取り入れています。作品世界における性転換の日常的な描写は、彼の探求する広範な性的テーマの一端を示しています。

ハリウッドとの関わり

ヴァーリイは数年間ハリウッドに滞在し、脚本執筆などに関わりましたが、実際に映画として完成したのは自身の小説を基にした『ミレニアム』（1988年、イギリス映画）のみです。この経験について、ヴァーリイは「ミレニアム」の映画化は1979年に企画が始まり、最終的に脚本を6回書き直したこと、監督が3回変更され、その度に練り直しを余儀なくされた結果、完成した作品では多くの要素が失われていた、と語っており、その過程での苦労が窺えます。

主な作品

長編
《八世界》シリーズ:
『へびつかい座ホットライン』（The Ophiuchi Hotline, 1977）
『スチール・ビーチ』（Steel Beach, 1992）
The Golden Globe (1998)
Gaea三部作:
『ティーターン』（Titan, 1979）
『ウィザード』（Wizard, 1980）
Demon (1984)
Red Thunder三部作:
Red Thunder (2003)
Red Lightning (2006)
Rolling Thunder (2008)
『ミレニアム』（Millennium, 1983）
Mammoth (2005)

短編集
『残像』（The Persistence of Vision, 1978）
『バービーはなぜ殺される』（The Barbie Murders, 1980）
『ブルー・シャンペン』（Blue Champagne, 1986）
The John Varley Reader: Thirty Years of Short Fiction (2004)
Good-bye, Robinson Crusoe and Other Stories (2013)
『逆行の夏 ジョン・ヴァーリイ傑作集』（2015, 日本オリジナル）
『汝、コンピューターの夢 〈八世界〉全短編１』（2015, 日本オリジナル）
『さようなら、ロビンソン・クルーソー〈八世界〉全短編２』（2016, 日本オリジナル）

主な受賞歴

「残像」: 1978年ネビュラ賞（中長編）、1979年ヒューゴー賞（中長編）、ローカス賞（ノヴェラ）
「バービーはなぜ殺される」: 1979年ローカス賞（ノヴェレット）
『残像』: 1979年ローカス賞（短篇集）
『ティーターン』: 1980年ローカス賞（SF長篇）
『バービーはなぜ殺される』: 1981年ローカス賞（短篇集）
「プッシャー」: 1982年ヒューゴー賞（短編）、ローカス賞（短篇）
「ブルー・シャンペン」: 1982年ローカス賞（ノヴェラ）
「PRESS ENTER■」: 1985年ヒューゴー賞（中長編）、ネビュラ賞（中長編）、ローカス賞（ノヴェラ）、1987年星雲賞（海外短編）
『ブルー・シャンペン』: 1987年ローカス賞（短篇集）
「タンゴ・チャーリーとフオックストロット・ロミオ」: 1992年星雲賞（海外短編）
The Golden Globe: 1999年プロメテウス賞
Red Thunder: 2004年エンデバー賞

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