アマチュア無線の歴史

アマチュア無線の歴史

アマチュア無線は、金銭的な利益を目的とせず、無線技術への個人的な興味に基づいて行われる、自己訓練や技術研究のための無線通信活動です。単なる趣味にとどまらず、科学、工学、産業、社会福祉に多大な貢献をしてきました。本稿では、その歴史を概観します。

創始

1888年にハインリヒ・ヘルツが電波の存在を証明し、1890年代にグリエルモ・マルコーニがそれを通信に応用した後、アマチュア無線が誕生しました。19世紀後半には、アマチュアの「有線」電信士が独自に電信システムを構築していましたが、マルコーニの無線電信の成功を受けて、多くが無線通信を試みるようになりました。

電波の商業利用や軍事利用が進む中、各国で電波に関する法令が整備されました。1903年には国際的な調整が必要となり、8か国の電波主管庁代表がベルリンに集まり、無線電信予備会議が開かれました。しかし、アメリカは電波監理を行わず、無線実験や商用利用を国民の自由に任せたことが、アマチュア無線を生み出す土壌となりました。

1905年、アメリカでコヒーラ検波器を利用した入門セット「テリムコ」が開発され、通信販売でヒットしました。当初は自己の送受信機間で距離を試す程度でしたが、1907年頃には学生たちが相互通信の楽しみを見出し、交信するアマチュア無線が誕生しました。1908年にはコロンビア大学の学生がコロンビア大学無線電信クラブ（現在のコロンビア大学アマチュア無線クラブ）を結成しました。これが記録に残る初のアマチュア無線クラブです。1910年には、オーストラリアで"Amateurs of Australia"（現在のオーストラリア無線協会）が設立されました。

学生を中心にアマチュア局が急増し、低い周波数を使用するようになったため、商業局や軍事局への混信妨害が社会問題となりました。特に、広帯域に電波を放射する火花送信機を使用するアマチュア無線家が問題視されました。アメリカは1912年にようやく電波法を施行し、アマチュア局には1500kHzより低い周波数の使用を制限しました。これにより、多くのアマチュア無線家が活動を制限されることになりました。アマチュア無線家を示す「ハム」という用語は、プロの無線従事者からの嘲りであるという説があります。

第一次世界大戦

第一次世界大戦の勃発に伴い、アメリカ議会は国内の全てのアマチュア無線家に対し、1917年までに運用を中止し機器を解体するように命じました。他の国々も同様にアマチュア無線の制限を行いました。この制限は第一次世界大戦終結後に解除され、アメリカでは1919年10月1日より再開されました。

戦間期

1921年、アメリカのアマチュア無線家がイギリスのアマチュア無線家の通信傍受に挑戦しました。1922年12月には多くのアメリカのアマチュア無線家がイギリスの通信を聞くようになり、まもなくイギリスでもアメリカの通信が聞こえるようになりました。

1923年6月28日、商務省は1.5-2.0MHzをアマチュア無線用に分配しました。世界初のアマチュアバンドです。短波を使う特別免許を得た、1923年11月27日、アメリカのアマチュア無線家フレッド・シュネルとフランスのアマチュア無線家レオン・デロイの間で、最初の大西洋横断双方向通信に成功しました。

短波の利用が進むにつれて、1925年には国際アマチュア無線連合(IARU)が結成されました。1927-28年のワシントンD.C.での第3回国際無線電信会議では、アマチュア局を国際的に認めるかどうかが議論され、国際的なアマチュア無線用の周波数帯とコールサインの命名規則が定められました。1932年の第四回国際無線電信会議において国際電気通信条約 附属一般無線通信規則にAmateur Station（アマチュア局）が盛り込まれました。

1933年、Robert Moore(W6DEI)は、3.5MHz帯で[振幅変調]]における片側波帯による音声通信]の実験を始めました。1934年までに、いくつかの[[アマチュア無線局がSSBによる通信を開始しました。

日本の初期

日本では1915年に無線電信法が施行され、個人や法人が無線実験を目的とする無線施設を開設できることになりました。1922年には濱地常康、本堂平四郎に私設無線電話施設が許可され、1923年には安藤博に私設無線電信無線電話施設が許可されました。

1920年代前半には、アマチュアでも真空管が入手できるようになり、中波で無線電話を実験するアンカバー局（無免許の無線局）が急増しました。1926年には日本素人無線聯盟（JARL、現・日本アマチュア無線連盟）が設立されました。

1926年10月、安藤博の第2装置 JFPAに対して波長38m（7.89MHz）と波長80m（3.75MHz）の追加が認められました。これが個人に対するはじめての短波長の許可です。1934年には、無線電信法第2条第5号により施設する私設無線電信無線電話に対して「実験用私設無線電信無線電話」の語が正式に与えられました。1941年12月時点で331局あった実験用私設無線電信無線電話は、太平洋戦争開戦に伴い、電波の発射が禁止されました。

第二次世界大戦

第二次世界大戦中も、アメリカ議会はアマチュア無線の全ての活動を中断させました。戦後、アマチュア無線業務が解禁されると、多くのアマチュア無線家が余剰の軍用無線機をアマチュア無線用に改造して使用しました。

カトリック司祭[マキシミリアノ・コルベ]は彼のアマチュア無線家としての活動がスパイ活動に関わっているとしてドイツによって逮捕され、アウシュヴィッツに移送され処刑されました。彼がアマチュア無線家でもあったことから、アマチュア無線の守護聖人とみなされています。

第二次世界大戦後

1950年代、アマチュア無線家は短波音声通信におけるSSBの使用を開拓しました。1961年には最初のアマチュア無線衛星、オスカー1号が打ち上げられました。

第二次世界大戦後の日本

日本の電波は占領軍の管理下に置かれ、アマチュア業務用の周波数は、占領軍およびその関係者のアマチュア業務用として占有されました。1952年に再開されると、1958年には初級資格が創設され、1966年には養成課程講習会制度が導入されたことで、アマチュア無線家の爆発的な増加をもたらしました。

20世紀後半

1979年の世界無線通信主管庁会議(WARC-79)では、3つの新しいアマチュア無線用周波数帯が割り当てられました。1980年代には、自動メッセージシステムやパケット無線が開発され、災害時の通信に貢献しました。1990年代には、PCとサウンドカードを使ったPSK31などのデジタル変調方式が導入され、デジタル通信が進化しました。

現在

アマチュア無線は、電気・情報分野の人材育成に貢献してきましたが、近年は趣味とする人が減少し、社団局の維持が困難になるケースもあります。2003年には、アマチュア無線家に対するモールス信号の試験が廃止されることが決定され、多くの国で試験要件が緩和されました。しかし、モールス符号は混信に強く少電力でも効率的な運用ができることから、根強い人気を誇っています。

日本の現状

最盛期には約135万局あったアマチュア局が、1995年を境に減少に転じ、2017年には約43万局となっています。しかし、2013年頃より減少にブレーキが掛かっています。

世界の現状

アメリカでは、2005年以降、10代を中心とした若年アマチュア無線家の増加がみられ、ヨーロッパ各国も横ばいか漸増傾向にあります。また、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、室内でできる趣味として見直され、日本アマチュア連盟(JARL)の会員数が増加しました。

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