アマミトゲネズミ

アマミトゲネズミ

アマミトゲネズミ（奄美棘鼠、Tokudaia osimensis）は、ネズミ目ネズミ科トゲネズミ属に分類される、日本固有の希少な齧歯類です。

分布

日本国内では、奄美大島のみに生息する固有種です。特に奄美大島の南東部に多く見られますが、北東部の龍郷町にも隔離された分布域が存在します。模式標本の産地は、現在の奄美市住用町です。

形態

体長は8.9 - 16cm、尾長は6.1 - 13.5cm程度です。背面の毛は黒色や橙色がかった黄褐色で、腹面は灰白色をしています。名前の由来ともなっている背中の被毛は、棘状になっていますが、他の毛と比べてわずかに硬い程度です。

口蓋孔の位置は、上顎第2臼歯の中央部、またはそれよりも前方にあります。後足の長さは24.5 - 33mmです。染色体数は2n=25で、性染色体はXO型です。Y染色体はX染色体に転座したか、SRY遺伝子なども含めて消失したと考えられています。

分類

かつてトゲネズミ属には、アマミトゲネズミのみが含まれていました。しかし、1943年に沖縄島、1977年に徳之島にも分布すると報告され、それぞれの地域の個体群が亜種として記載されました。その後の研究により、奄美大島、沖縄島、徳之島の個体群は、染色体数や性染色体の型が異なることが判明し、それぞれ別種であることが示唆されました。1993年には、沖縄島の個体群がオキナワトゲネズミとして、2006年には徳之島の個体群がトクノシマトゲネズミとして、独立種とする説が提唱されました。分子系統学的解析の結果、トクノシマトゲネズミとは600万 - 200万年前に分岐したと推定されています。

種内では、ミトコンドリアDNA制御領域の解析から、ハプロタイプ多様度は比較的高いものの、塩基多様度は低いと推定されています。これは、過去に何らかの原因でボトルネックが生じ、その後回復したことを示唆しています。

生態

イジュ、ウラジロガシ、スダジイなどの常緑広葉樹林に生息する夜行性の動物です。平均234.46平方メートルの行動圏を持ち、オス同士では行動圏の重複が少ない一方、メス同士では重複することが多いです。1日の平均移動距離は約20mです。

食性は雑食性で、スダジイの果実、サツマイモ、アリなどを食べます。主な捕食者はハブですが、ハブに対してはジャンプで攻撃をかわしたり、体を低くして毛を逆立てるなどの防御行動をとります。過去の調査では、ハブの捕食対象として哺乳類が確認された796例のうち、アマミトゲネズミはわずか3例でした。

繁殖形態は胎生で、10 - 12月に1 - 7頭の幼獣を産むことが確認されています。

人間との関係

1950年代以降の山地開発や森林伐採による生息地の破壊、ノイヌやノネコ、フイリマングースによる捕食などにより、生息数は減少しました。しかし、近年では保護対策が進められています。2004年以降の調査やマングース防除事業により、生息地での継続的な生息が確認されており、マングースの駆除によって生息環境は安定し、個体群は回復傾向にあると推定されています。また、森林伐採や都市化がアマミトゲネズミ、ケナガネズミ、外来種であるクマネズミに与える影響を比較した研究から、アマミトゲネズミやケナガネズミの保護のためには、伐採などの人為的影響を極力小さくすることが重要であることが示されました。

日本では、1972年に国の天然記念物に指定され、保護されています。

保全状況

環境省のレッドリストでは、絶滅危惧IB類 (EN) に指定されています。

環境省と日本動物園水族館協会は、2017年から野生個体を動物園で飼育し、繁殖を目指す「生息域外保全事業」を開始しました。同年1月に捕獲された個体は、埼玉県こども動物自然公園、恩賜上野動物園、宮崎市フェニックス自然動物園に移送され、宮崎市フェニックス自然動物園では2018年9月に繁殖が確認されました。宮崎大学でも4年以上の長期飼育に成功した事例があります。

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