アミスクウィア

アミスクウィア

アミスクウィア（Amiskwia）は、約5億年前、地球の生命が爆発的に多様化したカンブリア紀に生息していた古生物の一属です。この動物は主に、カナダのブリティッシュコロンビア州にある有名な化石産地、バージェス頁岩から発見されています。他にも、中国雲南省の澄江動物群からも同属とされる化石が見つかっていますが、保存状態の良い標本はバージェス頁岩産のものに限られており、研究の大部分はそちらに基づいています。アミスクウィアは、その形態から海中を自由に泳ぎ回る遊泳性の動物であったと考えられています。

特徴

アミスクウィアは、最大で3.13センチメートル程度の比較的小さな生物でした。体は全体的に柔軟性があったと推測され、頭部とそれに続く胴部から構成されていました。頭部には目立つ触角が備わっており、胴部は体長の約3分の2を占めていました。移動手段として、現生のヤムシ類（毛顎動物）に似た鰭（ひれ）を持っていました。胴体の半ばに一対、そして尾部に一つ配置されていましたが、ヒレには現生の魚類などに見られるような筋状の構造（鰭条）は確認されていません。

内部構造についても化石から多くの情報が得られています。口から始まり肛門へと繋がる消化管や神経系が保存されており、特に神経系は、ヤムシ類において特徴的に見られる一対の大きな神経節が確認できます。一方、口の周囲に収められた口器は、ヤムシ類よりもむしろ顎口動物との類似性を示しています。この口器は、一対の顎と、その中央に配置された一枚の板状構造から構成されていました。それぞれの顎は半円形をしており、縁には8本から10本程度の鋭い棘が生えています。中央の板状構造は二つに分かれたような形をしていました。

生態

アミスクウィアは、体を岩などに固定するための付属肢や器官を持っていませんでした。代わりに、発達したヒレを用いて水中を移動していたと考えられ、比較的活発に泳ぎ回る生物だったと推測されています。その食性については、他の小さな生物を捕らえて食べる捕食者、あるいは生物の死骸を食べる腐肉食者であった可能性が指摘されています。

分類学上の位置づけ

アミスクウィアは、発見当初からその分類学上の位置について様々な議論がなされてきました。原記載を行ったチャールズ・ウォルコットは1911年に毛顎動物（ヤムシ）に分類しましたが、その後の研究では紐形動物（ヒモムシ）とされたり、現生のどの動物門にも明確には属さないと考えられた時期もありました。

1990年代以降、再び毛顎動物説が注目されるようになります。近年、口器の詳しい構造が明らかになったことで、アミスクウィアは担顎動物と毛顎動物を含むChaetognathiferaという分類群に属する可能性が高いという説が提唱されました。ただし、この説ではChaetognathifera内の正確な位置は不確実で、このグループの初期の系統（ステムグループ）であるか、あるいは顎口動物のステムグループに近い可能性が示唆されていました。

これに対し、近年の系統解析を用いた研究（2019年、2022年、2024年の論文）では、アミスクウィアは基盤的な毛顎動物であるという結果が得られています。これらの解析は、担顎動物（特に顎口動物）との類似点、例えば口器の構造などは、Chaetognathiferaの共通の祖先形質であった可能性を示唆しています。さらに、2024年の研究では、アミスクウィアは形態の似たティモレベスティアとともに「amiskwiiform」という非公式なグループとして総称され、現生のヤムシ類につながる系統樹の側枝にあたるグループ（側系統群）として位置づけられています。

アミスクウィアは、カンブリア紀の多様な生命形態を理解する上で重要な生物の一つであり、その研究は現在も進行中です。

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