アメリカン・アニメーションの黄金時代

アメリカン・アニメーションの黄金時代：1920年代から1960年代

1920年代後半、トーキー映画の登場を機に幕を開けたアメリカン・アニメーションの黄金時代は、約40年に渡り、世界中に数々の名キャラクターと革新的な技術を生み出しました。劇場アニメがテレビアニメに取って代わられる1960年代まで続いたこの時代は、ディズニー、フライシャー、ワーナー・ブラザースなどのスタジオ間の激しい競争、そして技術革新、そして時代の変化が複雑に絡み合った、アニメーション史上に燦然と輝く時代でした。

黎明期：トーキーアニメーションの誕生と主要スタジオの隆盛

1927年、長編映画にトーキーが導入されると、映画業界全体に衝撃が走りました。アニメーション界もその波に乗り、ウォルト・ディズニーは、自身のスタジオの命運を賭け、初のトーキー短編アニメーション『蒸気船ウィリー』を制作・公開。ミッキーマウスの登場は、瞬く間に世界中を魅了し、ディズニーの成功の礎となりました。

1930年代に入ると、アニメーション業界はディズニー、フライシャー兄弟、そしてその他のスタジオの三つ巴の競争状態となりました。ディズニーはミッキーマウスの人気によって圧倒的な存在感を示し、関連商品が世界恐慌で苦しむ企業を救うほどでした。また、テクニカラーやマルチプレーンカメラの開発など、技術革新にも大きく貢献し、『花と木』や『三匹の子ぶた』といった名作を世に送り出しました。

一方、フライシャー・スタジオは『ベティ・ブープ』や『ポパイ』といった個性的なキャラクターを生み出し、ディズニーとは異なる都会的で洗練されたスタイルで人気を博しました。特にベティ・ブープは、日本の美少女キャラクターの原型にもなったと言われています。フライシャーはまた、ロトスコープや独自の撮影方式「ロトグラフ方式」を開発し、後のマルチプレーンカメラの開発に影響を与えました。しかし、1934年のヘイズ規制によりベティ・ブープのセクシーな描写が規制され、大きな打撃を受けました。

ワーナー・ブラザースは、当初はハーマンとアイジングが制作した『ルーニー・テューンズ』シリーズで成功をおさめましたが、革新性に欠ける作品が多く、目立った成功は収めませんでした。しかし、テックス・エイヴリーを迎え入れると、一気に状況が好転。『ポーキー・ピッグ』、『ダフィー・ダック』、『バッグス・バニー』など、人気キャラクターを次々と生み出し、アニメーション業界のトップに躍り出ました。

その他にも、ウォルター・ランツ・スタジオ、チャールズ・ミンツ・スタジオ、アブ・アイワークス・スタジオなど、多くのスタジオが独自のキャラクターやスタイルで競争を繰り広げました。

1937年、ディズニーは史上初の長編カラーアニメーション映画『白雪姫』を制作、大成功を収めました。これは、ディズニーにとって大きな転換期となり、長編アニメーション制作に注力するようになりました。しかし、続く『ピノキオ』、『バンビ』、『ファンタジア』は、『白雪姫』ほどの興行成績は収められませんでした。

戦時下のアニメーション：戦争とストライキ

1940年代に入ると、アメリカ合衆国の参戦による戦争と、ディズニー・スタジオにおけるアニメーターストライキという二つの大きな出来事が、ハリウッドのアニメーション業界に大きな影響を与えました。

戦争によって、アニメーションスタジオは戦争関連の短編映画やプロパガンダ作品制作に動員されることとなりました。ディズニーは長編アニメーションの制作を継続しつつも、『空軍力の勝利』などのプロパガンダ映画制作にも貢献しました。ワーナー・ブラザースは『プライヴェート・スナフー』シリーズを制作し、兵士の士気高揚に努めました。

ストライキはディズニー・スタジオとアニメーターたちの関係に亀裂を生じさせ、多くの優秀なアニメーターがスタジオを去りました。後にUPA(ユナイテッド・プロダクション・オブ・アメリカ)を設立したアニメーターたちも、その中に含まれていました。

戦争中、フライシャー・スタジオは『スーパーマン』シリーズを制作し、大きな成功を収めました。しかし、パラマウント映画によるフライシャー兄弟の解雇とスタジオのフェイマス・スタジオへの改名という出来事は、スタジオの衰退を招くこととなりました。

一方で、MGMはハンナ・バーベラによる『トムとジェリー』シリーズの大成功、テックス・エイヴリーの入社によって、ディズニーとワーナー・ブラザースに匹敵するスタジオへと成長しました。ウォルター・ランツ・スタジオも『ウッディー・ウッドペッカー』などのキャラクターを生み出し、成功を収めました。

ストップモーションと特殊効果：アニメーション以外の発展

黄金時代のハリウッドでは、アニメーションは主に映画作品そのもの、あるいはタイトルアニメーション制作に専念していました。しかし、一部の実写映画では、特殊効果としてアニメーションが使用されることがありました。

ストップモーション・アニメーションは、ウィリス・オブライエンによる『キング・コング』の大成功により注目を集め、レイ・ハリーハウゼンなど、多くのストップモーション・アニメーターを輩出しました。この技術は、1950年代のSF映画ブームによって発展し、『2001年宇宙の旅』などの作品で頂点を極めました。

セルアニメーションとストップモーション・アニメーションは、技術的な類似性があるにもかかわらず、黄金時代においては、ほとんど同時に盛んになることはありませんでした。アニメーションは、実写映画のタイトルやクレジット制作においても活用され、『めまい』などのヒッチコック作品や『ピンク・パンサー』シリーズのオープニングタイトルが有名です。

1950年代以降：テレビの台頭と黄金時代の終焉

1950年代に入ると、UPA(ユナイテッド・プロダクションズ・オブ・アメリカ)は、リミテッド・アニメーションという新しいアニメーションスタイルを確立しました。このスタイルは、より単純で抽象的な表現方法であり、既存のアニメーションとは一線を画すものでした。UPAの『近眼のマグー』や『ジェラルド・マクボイン・ボイン』などは、高い評価を受けました。

UPAの影響を受け、ハリウッドのアニメーションスタジオは、豪華絢爛なスタイルからより簡素で抽象的なスタイルへと移行していきました。ディズニーもUPAの影響を受け、『プカドン交響楽』などの実験的な作品を制作しました。

1950年代のワーナー・ブラザースは、チャック・ジョーンズが監督した『ロードランナー』や『バッグス・バニー』シリーズなどで、アニメーションの黄金期を築きました。『カモにされたカモ』や『オペラ座の狩人』などは、アニメーション史に残る名作として現在も高い評価を受けています。MGMも『トムとジェリー』シリーズなどで成功を収めましたが、1957年にはアニメーション部門を閉鎖しました。

一方、フェイマス・スタジオは、戦後、作品クオリティが低下し、次第に衰退していきました。ディズニーは1950年代を通じて長編アニメーション映画を制作し続け、『わんわん物語』、『シンデレラ』、『101匹わんちゃん』など、現在も愛される古典的名作を世に送り出しました。

しかし、1960年代に入ると、テレビの台頭により、映画館の観客が減少。ハンナ・バーベラ・スタジオはテレビアニメ制作に注力し始め、これはアメリカン・アニメーションの状況を大きく変えることになりました。黄金時代は終焉を迎え、アニメーションの中心はテレビへと移っていったのです。

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