アメリカ合衆国美術委員会

アメリカ合衆国美術委員会 (CFA)

アメリカ合衆国美術委員会（U.S. Commission of Fine Arts、略称: CFA）は、1910年に議会の制定法に基づき設立された、アメリカ合衆国連邦政府に属する独立した監督機関です。その主な役割は、首都ワシントンD.C.における公共および一部民間の建築物、公園、記念碑などのデザインと美観に関する助言や承認を行い、計画的な都市開発と景観保全に貢献することにあります。

権限の範囲

CFAは、ワシントンD.C.内の建築設計や都市景観に対して広範な影響力を持ちますが、その権限は対象によって異なります。

一般的に、CFAは市内にある全ての建築物の「デザインと美観」に関する事項について審査を行う権限を有しています。これは承認権限ではなく、主に諮問的な役割を担います。

しかし、特定の重要区域においては、より強い権限が付与されています。

オールドジョージタウン法に基づく権限: ジョージタウン歴史地区内にある公共・民間の建造物については、CFAが任命する「オールドジョージタウン委員会」を通じて、設計の承認権限を持ちます。
シップステッド＝ルース法に基づく権限: アメリカ合衆国議会議事堂、ホワイトハウスの敷地、議会議事堂からホワイトハウスに至るペンシルベニア大通り、ラファイエット広場、ロッククリーク公園、国立動物園、ロッククリーク＝ポトマック・パークウェイ、西ポトマック公園、そしてナショナル・モールおよびそれに接する公園や公共・民間の建物については、設計や高さに関する承認権限も有しています。

なお、議会議事堂や議会図書館など、議事堂建築監が直接監督する施設は、CFAの管轄外とされています。

歴史的背景

首都の景観規制の歴史は古く、ジョージ・ワシントン初代大統領の時代に遡りますが、一度はジェームズ・モンロー大統領によって権限が停止されるなど、変遷がありました。

美術・建築分野における連邦政府機関設立への動きは、1893年のシカゴ万国博覧会を契機に活発化します。コスモスクラブやアメリカ建築家協会が中心となり、公共美術連盟を結成して連邦議会に働きかけを行いましたが、当時は猟官制の影響もあり、議会の意向が強く反映された諮問委員会としての設置を望む議員が多く、当初の法案は成立しませんでした。

1900年には、ナショナル・モール周辺の無秩序な開発に対処するため、上院公園委員会、通称「マクミラン委員会」が設置されます。同委員会は、後に「マクミラン計画」として知られる包括的な都市計画案を策定しました。この計画には、広大な公共空間の確保、通り網の再編成、記念碑的な建築物の配置、公園の拡充や改修などが含まれており、後の首都の景観形成に大きな影響を与えました。

マクミラン計画の推進には監督機関が必要となり、その流れの中で3つの機関が設立されました。その一つが、新しい建築物のデザインに関する助言を行うための美術委員会（1910年）であり、その他に連邦庁舎に関する公共建築委員会（1916年）、都市計画全般を担う首都公園・計画委員会（1924年）がありました。

CFA設立の直接的なきっかけは、1909年1月のアメリカ建築家協会によるセオドア・ルーズベルト大統領への要請です。これに応じたルーズベルト大統領は、同年1月19日に美術評議会を大統領令によって設置しましたが、後任のウィリアム・タフト大統領はわずか数ヶ月後の5月21日にこれを撤回しました。撤回の理由は諸説ありますが、法律に基づく設置を目指したため、あるいは議会からの強い反対があったためとされています。

その後、美術委員会を法律に基づいて恒久的に設置するための法案が議会に提出され、審議が進められました。当初の下院案は委員の資格や権限に一定の定めがありましたが、上院での修正を経て、委員は7人の「芸術に精通した者」とされ、権限も基本的には諮問的なものに限定されました。議会内の複雑な駆け引きを経て法案は可決され、1910年5月27日にタフト大統領が署名し、アメリカ合衆国美術委員会が正式に発足しました。初代委員長には著名な建築家ダニエル・バーナムが任命されました。

設立当初、CFAの権限は記念碑などに関する助言に限定されていましたが、その後の歴代大統領による大統領令（タフト大統領令1259号、ウィルソン大統領令1862号、ハーディング大統領令3524号）により、公共建築物、街並みに影響を与える建造物、さらには噴水、公園、貨幣や記章のデザインなど、審査対象が段階的に拡大されていきました。

組織と委員構成

美術委員会は、大統領によって任命される7人の委員で構成されます。これらの委員の任命に際しては、上院の承認は必要とされません。委員の任期は4年で、再任に制限はありません。委員は建築、造園、彫刻、絵画など、芸術やデザインの分野で実績のある専門家が務めます。

委員の中から互選によって委員長と副委員長が選出されます。

近年では、2021年に当時のジョー・バイデン大統領が、多様性と公平性の促進を理由に、当時の委員長を含む4人の白人男性委員を解任した事例があり、その背景には「古典建築への強い支持が政権の美的感覚と合わない」といった報道もなされ、委員会の独立性や大統領による介入の是非について議論を呼びました。解任された委員からは、委員会の歴史上、大統領が委員を解任した前例はないとの指摘もありました。

これまでに、ダニエル・バーナム、チャールズ・ムーア、J・カーター・ブラウンなど、著名な専門家が委員長を務めています。2021年からはビリー・チエン氏が委員長に就任しています。

CFAは、その設立以来、首都ワシントンD.C.の壮麗な景観を維持し、今後の都市開発においてもその美観と歴史的価値を尊重するための重要な役割を担っています。

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