アメリカ国際貿易委員会

アメリカ国際貿易委員会（USITC）

アメリカ国際貿易委員会（United States International Trade Commission, USITC）は、アメリカ合衆国の貿易に関する独立した準司法的連邦機関です。ワシントンD.C.に拠点を置き、貿易関連の幅広い権限を有しています。単に国際貿易委員会（ITC）とも呼ばれます。

目的

USITCは、アメリカ国内産業に損害を与える不公正な貿易行為を是正することを目的としています。具体的には、以下の様な活動を行っています。

ダンピングや補助金に対するアンチダンピング関税・相殺関税の賦課における国内産業の損害有無の調査
輸入品による商標、特許、著作権等の知的財産権侵害の調査・分析と差止命令の発令
* 輸入急増による国内産業への被害に対する調査と救済策の決定

これらの調査結果や決定、提言は、アメリカ合衆国議会、大統領、アメリカ通商代表部（USTR）に送付され、政策決定の参考とされます。

歴史

USITCの前身は、1916年に設立されたアメリカ関税委員会です。1930年関税法の制定により法的根拠を得て、1974年通商法による改正でアメリカ国際貿易委員会に改称されました。この改正により、排除命令の発出権限が付与・強化され、現在の形に至っています。

知的財産権侵害に関するUSITCの主要な調査・輸入差止めの法的根拠は、1930年関税法337条（合衆国法典第19編第1337条（19 U.S.C.§1337））です。

第337条審理

第337条に基づく審理は、行政手続法に従い、行政判事室から選ばれた判事が仮決定を行い、委員会が追認する形で最終判断を下します。審理期間は15ヶ月以内と定められており、陪審員制度はありません。

委員会が行う決定は、通関を禁止する排除命令と販売を中止する停止命令の2種類です。損害賠償請求の可否は問わないため、知的財産権侵害などの被害を受けた企業や個人は、並行して各連邦地方裁判所に提訴することが一般的です。裁判所もUSITCの決定プロセスを参考にすることが多く、その処分が審理を大きく左右します。

第337条の適用の傾向

USITCは非常に強力な権限を持つため、アメリカ国内企業が海外メーカーを標的に提訴するケースが多く、海外企業からは恐れられてきました。しかし、2000年代以降は、アメリカ国内市場で競合する第三国企業同士が提訴合戦を行う場としても注目されています（例：2008年～2009年のシャープとサムスン電子による液晶テレビ輸入差止訴訟）。

USITCはアメリカの国益を損ねないための機関ですが、アメリカ企業に絶対的に有利というわけではありません。例えば、2009年には日本の船井電機が持つ特許を、アメリカのVIZIOが侵害したとして液晶テレビの輸入が差し止められる事例もありました。

特許訴訟においては、通常の連邦裁判所での訴訟と並行してUSITCへの申し立てを行い輸入差止を行うことで、相手方にプレッシャーを与え、早期解決や有利な和解条件を引き出す手段として用いられることがあります。ただし、USITCへの申立人資格は、米国内の産業保護の趣旨から、単に米国特許を有するだけでは不十分であり、米国内で実質的な事業を行っている者（工場等への投資、労働力の雇用、特許対象製品への投資など）に限られます。

また、国内企業同士の事例として、2022年12月にはAppleの心電図機能付きApple Watchが、医療機器メーカーであるAliveCorの特許を侵害しているとの認定が下されました。

USITCの判断は、アメリカの貿易政策や企業戦略に大きな影響を与えるため、その動向は常に注目されています。

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