アメリカ艦隊総軍

アメリカ艦隊総軍（USFLTFORCOM）

アメリカ艦隊総軍は、アメリカ海軍において中枢的な役割を担う組織の一つです。その司令部はバージニア州ノーフォークに位置し、海軍大将（Four-star Admiral）が指揮官を務めています。部隊の管理系統においては海軍作戦本部（OPNAV）の指示に従いますが、作戦上の指揮はアメリカ北方軍（USNORTHCOM）から受けます。

起源と歴史

艦隊総軍の歴史は、かつての大西洋艦隊（U.S. Atlantic Fleet）に始まります。2001年10月、当時の海軍作戦部長ヴァーン・クラーク大将の主導により、大西洋艦隊と並ぶ新たな組織として艦隊総軍が設立されました。この決定に伴い、当時の大西洋艦隊司令長官であったロバート・ナッター大将が、初代艦隊総軍司令官として両ポストを兼任することになりました。

艦隊総軍の初期の任務は、大西洋艦隊および太平洋艦隊の両方に属する部隊について、非展開期間中の人員、装備、訓練に関する要求の調整、政策の設定、そしてその実施を統括することと定義されました。これにより、部隊の訓練・錬成を担当する「フォース・プロバイダー」としての現在の役割の基礎が築かれ、その影響は直接の母体である大西洋艦隊だけでなく、太平洋艦隊にも及ぶこととなりました。司令部は、1948年から大西洋艦隊司令部が置かれていたノーフォークに併設されました。指揮系統に関しては、統合戦力軍（USJFCOM）の下に置かれると同時に、2001年の同時多発テロの教訓から新設された北方軍の管轄エリアにおける海軍部隊の作戦や訓練については、北方軍の指揮も受ける体制となりました。

その後、司令官の呼称に変更が生じます。2002年10月、当時の国防長官ドナルド・ラムズフェルドは、「Commander-in-Chief」という称号を大統領のみが用いるべきであるとし、序数艦隊の長官級ポストの呼称を「司令長官」から「司令官」へと変更するよう通達しました。これを受け、「大西洋艦隊司令長官兼艦隊総軍司令官」は「大西洋艦隊司令官兼艦隊総軍司令官」となりました。

2003年からは、クラーク海軍作戦部長が発表した新世紀の海軍戦略構想「シー・パワー21」が本格的に実行に移されます。この構想に基づき、艦隊総軍の重要性はさらに高まりました。「シー・パワー21」が掲げた目標の一つである「シー・トライアル」は、試験や演習を通じて迅速な技術革新を目指すものであり、艦隊レベルでの実施を艦隊総軍司令官が統括することとされました。また、「シー・トライアル」を推進するため、海軍大学校傘下にあった海軍戦闘開発コマンド（NWDC）が艦隊総軍の隷下に組み入れられました。

主要な任務と役割

艦隊総軍の最も中心的な任務は、前述の「フォース・プロバイダー」としての機能です。これは、所属する海軍部隊を高度な訓練と育成によって即応可能な状態に整え、必要に応じて世界各地の統合軍へ提供・派遣することを含みます。これにより、海軍兵力のグローバルな展開と配置の調整を担っています。

艦隊総軍は、その起源が大西洋艦隊にあり、司令官が海軍大将である点などで太平洋艦隊と比較されることが多いですが、役割には違いが見られます。太平洋艦隊が主に太平洋軍（PACOM）へ戦力を供給し、太平洋地域に特化した組織であるのに対し、艦隊総軍は、伝統的な担当海域である西大西洋だけでなく、太平洋地域（特に沿岸部）における管理や指揮命令にも関与しています。さらに、兵站、補給、施設管理といった後方支援部隊の多くが艦隊総軍の直属下にあったり、艦隊総軍傘下の部隊が太平洋艦隊の同種部隊より上位に位置づけられたりするケースも多く見られます。

フォース・プロバイダーの役割に加え、艦隊総軍は合衆国本土に拠点を置く組織として、本土防衛、特に海上からの脅威に対する防御を担う部隊としての側面も持ち合わせています。

指揮系統と組織構造

本土防衛の役割を担う性格から、艦隊総軍は作戦系統上、北米地域を管轄する地域別統合軍である北方軍の下に位置づけられています。創設当初は、他の軍種のフォース・プロバイダー組織と同様に、特定の地域を持たない機能別統合軍である統合戦力軍（USJFCOM）の下に置かれていました。しかし、2011年に統合戦力軍が廃止されたことで、現在の北方軍指揮下へと体制が変更されました。また、必要に応じてアメリカ戦略軍とも連携して活動を行います。

艦隊総軍は、西大西洋を担当する第2艦隊を主要な作戦部隊として有しています。さらに、部隊の練成訓練に関しては、第3艦隊に対しても指示を発出することがあります。訓練を終えた部隊は、世界各地の番号付き艦隊（例えば第5艦隊や第6艦隊など）へ必要に応じて派遣されます。

大西洋艦隊の司令官職は、冷戦終結に伴う大西洋方面の重要度低下を受けて、艦隊総軍司令官職と兼任されるようになりました。2006年には大西洋艦隊司令部が艦隊総軍司令部へ統合され、指揮系統の簡素化が進みました。大西洋艦隊という名称自体は、戦闘部隊としての第2艦隊が存続するものの、訓練部隊である大西洋艦隊水上部隊（NAVSURFLANT）などに限定的に使用される傾向にあります。

艦隊総軍の主要な隷下部隊としては、戦闘艦隊である第2艦隊（タスクフォース20）、訓練を担う大西洋艦隊水上部隊（NAVSURFLANT）、戦闘部隊である大西洋艦隊潜水艦部隊（SUBLANT）、そして訓練を担当する大西洋艦隊航空隊（NAVAIRLANT）などが挙げられます。これらの部隊を通じて、艦隊総軍はアメリカ海軍の即応性と戦力投射能力を維持・向上させる重要な役割を果たしています。

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