アリモドキゾウムシ

アリモドキゾウムシ（学名: Cylas formicarius）は、コウチュウ目ゾウムシ上科ミツギリゾウムシ科に属する昆虫です。特にサツマイモをはじめとするヒルガオ科の植物に深刻な被害をもたらすことから、農業分野では重要害虫として認識されています。日本では、本種の拡散を防ぐため植物防疫法によって特殊害虫に指定されており、発生地域から未発生地域への寄主植物の持ち出しが規制されています。また、生態系への影響も懸念されており、「日本の侵略的外来種ワースト100」にも選定されています。

分布

アリモドキゾウムシの起源は、インドやミャンマーを含むアジア、特に東南アジア地域と考えられています。現在では東南アジアのほか、アフリカ、北アメリカ、中南米、オーストラリアなど、世界中の熱帯・亜熱帯地域に広く分布しています。日本国内においては、北緯30度よりも南の地域、具体的には南西諸島や小笠原諸島に移入し、定着しています。

特徴

成虫は体長がおよそ6.5ミリメートル、幅は約2.0ミリメートルと比較的小型のゾウムシです。体全体に金属のような光沢が見られます。口吻と翅鞘、およびその下面は黒藍色をしており、胸部と脚は赤褐色、触角は黄褐色という特徴的な色彩をしています。幼虫は成長すると体長約6.0ミリメートルになり、乳白色をしていますが頭部は淡い黄褐色です。体は湾曲しており、表面には多数のしわが見られます。蛹も幼虫と同様に乳白色です。

生態

アリモドキゾウムシは、アサガオ属、サツマイモ属、ヒルガオ属といったヒルガオ科の植物を寄主としています。卵から成虫に至るすべての成長段階を、これらの植物の内部や根際で見つけることができます。具体的な食草としては、ノアサガオ、コヒルガオ、ハマヒルガオ、グンバイヒルガオ、ルコウソウ、そして最も重要なサツマイモなどが知られています。

被害

アリモドキゾウムシは、寄主植物の塊根（イモの部分）の露出した箇所や、主茎の根元付近に卵を一つずつ産み付けます。孵化した幼虫は、植物の内部を食害しながらトンネル状の孔道を掘り進みます。この孔道は、幼虫の排泄物によって後方が塞がれるという特徴があります。被害を受けた植物の組織、特に塊根は、褐変あるいは黒く変色し、強い苦味と不快な臭気を帯びるようになります。これにより、人の食用はもちろん、家畜の飼料としても全く適さなくなってしまい、農業生産に深刻な損害をもたらします。

世界的拡散と対応

アリモドキゾウムシの起源がインド亜大陸であるのに対し、主要な寄主であるサツマイモは南米北西部が原産と考えられています。アリモドキゾウムシは自力での長距離移動は得意ではありませんでしたが、約9千万年前に出現して以降、グンバイヒルガオなどを寄主として南アジアで少しずつ分布を広げていました。しかし、15世紀末にポルトガル人によってサツマイモがヨーロッパ経由でインドへ持ち込まれたことが転機となります。サツマイモが世界各地へ人為的に運ばれるにつれて、それに伴いアリモドキゾウムシも急速に分布を拡大したと考えられています。分子系統解析によると、インド産の個体群は他の地域の個体群と遺伝的に大きく異なり、東アジア地域の個体群はさらに細かく分かれることが明らかになっています。

日本国内での問題と防除の歴史

日本国内では、1903年に沖縄県で、1914年には小笠原諸島で初めてアリモドキゾウムシの発生が確認されました。その後、1940年代には奄美群島全体に、1950年代にはトカラ列島全域へと分布を広げました。さらに北上は続き、1959年には種子島や馬毛島、1965年には鹿児島県本土南部にまで到達しました。南西諸島から遠く離れた高知県室戸市で発見された事例（1995年）もあり、広範囲への分散能力も示唆されています。

アリモドキゾウムシの根絶は非常に困難ですが、島単位での成功事例も報告されています。

沖縄県久米島での根絶事例：沖縄県病害虫防除技術センター主導のもと、久米島では大規模な根絶事業が実施されました。まず、1994年末から1999年初頭にかけて、雄だけを捕獲除去することで野生個体群の密度を大幅に減少させました。その後、毎週数十万から数百万頭、合計で4億6千万頭を超える不妊虫（放射線を照射して繁殖能力を失わせた雄）を島全体に放飼しました。この結果、徹底的な調査により、1996年11月にはサツマイモからの寄生率がゼロになり、さらに野生寄主植物であるノアサガオからも2011年10月には寄生が確認されなくなりました。これらの成果を受け、2013年1月には那覇植物防疫事務所が「実質的な根絶を確認した」と発表しました。これは、不妊虫放飼法によって甲虫類を根絶した世界で初めての成功例として注目されています。この偉業を記念し、2013年5月には記念式典も開催されました。また、沖縄県うるま市の津堅島でも、2021年4月27日にアリモドキゾウムシの根絶が確認され、久米島に続く世界で2例目の成功事例となりました。

静岡県での発見と緊急防除：近年では、分布域外である静岡県での発生も確認されています。2022年10月26日、静岡県浜松市付近のサツマイモ畑でアリモドキゾウムシが見つかりました。これを受けて、2023年3月19日からは植物防疫法に基づく緊急防除措置が開始され、一部の地域ではサツマイモなどの栽培が一時的に禁止されました。防除には時間を要し、2023年11月末の専門家会議ではさらに1年程度の継続が必要と判断されていました。しかし、集中的な防除の結果、2023年秋季から2024年秋季までの約1年間、発生が全く確認されなかったため、2024年11月27日に国によって緊急防除の終了が発表され、この地域での根絶が確認されました。

アリモドキゾウムシは、サツマイモ栽培にとって非常に大きな脅威であり、その拡散防止と防除は引き続き重要な課題となっています。沖縄や静岡での根絶成功事例は、今後の防除戦略において貴重な知見となっています。

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