アリ・シェフェール

アリ・シェフェール (Ary Scheffer)

アリ・シェフェール（1795年2月10日 - 1858年6月15日）は、オランダのドルトレヒト出身のフランスの画家であり、独特のスタイルを持ったロマン主義の背景を持つ芸術家です。彼は、父親が肖像画家であり、兄弟も画家であった家庭に生まれましたが、その後、母親とともにパリに移り住みました。パリでは、著名な画家ピエール＝ナルシス・ゲランの工房に入って研鑽を積みました。

シェフェールがアトリエを離れた頃、フランスではロマン主義の流れが強まっていましたが、彼自身はそのスタイルにあまり関心を示さず、「冷たい古典主義」とも称される独自のアプローチを取り入れることになりました。この独自のスタイルは、情熱や劇的な表現を控えめにし、より冷静で静謐な雰囲気を醸し出しています。

彼の作品は、特に文学から影響を受けたものが多く、その中にはバイロンやゲーテの作品を題材にしたものが数多く存在します。シェフェールは、「ファウスト」関連の多くの絵を描いており、特に注目に値するのが『糸車のマルガレーテ』や『教会を去るマルガレーテ』などです。これらの作品では、文芸的なテーマを視覚的に再現する技術が際立っており、観る者に強い感情を呼び起こします。

その後、作品のテーマは宗教へと移行しました。彼の宗教画には、『慰める者キリスト』や『埋葬されたキリスト』などが含まれ、深い精神的な意味合いを持つ作品として評価されました。シェフェールは優れた肖像画家でもあり、ショパンやディケンズ、アルフォンス・ド・ラマルティーヌなど、多くの著名な人物を描きました。彼の肖像画は、細部にわたる写実的な表現と、描かれた人物の人間性を引き出すことに重点が置かれていました。

18世紀後半から19世紀にかけて、フランス社会は激変しましたが、シェフェールの人気は1848年のフランス第二共和政の成立後に衰え始めました。彼はそれ以降、アトリエに籠り、心血を注いだ作品を制作しましたが、展示の機会は限られていました。彼の死後になってようやく、没後展が開催され、彼の作品が再評価されることがありました。

シェフェールは1858年にアルジャントゥイユで亡くなり、モンマルトル墓地に埋葬されました。彼の名声は晩年には地に堕ちていましたが、彼の作品に対する評価は今でも続いており、日本では《戦いの中、聖母の加護を願うギリシャの乙女たち》が国立西洋美術館に所蔵されています。シェフェールは1848年にレジオンドヌール勲章のコマンドールに叙されましたが、それまでの栄光からは程遠いものでした。彼の生涯と作品は、芸術史における重要な一ページを刻んでいます。

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