アルカエオグロブス属

アルカエオグロブス属（Archaeoglobus）

アルカエオグロブス属（学名：Archaeoglobus）は、地球上の極限環境、特に深海の熱水噴出孔や地下の石油鉱床といった高温環境に生息する、偏性嫌気性の古細菌の一群です。これらの微生物は、その独特な生理機能により、こうした過酷な環境に適応しています。

特徴と生理機能

アルカエオグロブス属の菌体は、通常、幅が0.3から1マイクロメートル程度の不定形な球菌です。細胞の外側は、糖タンパク質から構成されるS層と呼ばれる細胞壁で覆われています。また、特定の環境ストレス下では、菌が集まってバイオフィルムを形成する性質を持つことが知られています。彼らは酸素が存在しない環境でのみ生育できる「偏性嫌気性」であり、主に原油や熱水噴出域から分離されています。

増殖の最適な条件は、一般的に温度が75度から85度の高温域、そしてpHが5から7の中性域です。この属の最大の特徴の一つは、そのエネルギー獲得方法にあります。彼らは主に「硫酸塩呼吸」と呼ばれる代謝経路を用い、硫酸塩を還元することでエネルギーを得ます。このため、広義の硫酸還元菌に含まれますが、系統的にはバクテリアに属する古典的な硫酸還元菌（デルタプロテオバクテリア綱など）とは異なり、古細菌の独立したグループに位置づけられています。興味深いことに、この属はメタン生成古細菌の系統に比較的近く、非常に微弱ながらメタンを生成する能力も持っていることが示されています。

代謝基質としては多様な有機物を利用して従属栄養的に生育するほか、水素を電子供与体として二酸化炭素を固定し、化学合成独立栄養的に増殖することも可能です。これらの代謝活動の結果として、硫化水素（H₂S）や硫化鉄（FeS）のような化合物を生成します。特に硫化水素は強い腐食性や毒性を持つため、油田や石油関連施設においては、金属配管の腐食、有毒ガスの発生、さらには原油の品質劣化といった深刻な問題を引き起こす原因となることがあります。

主な種

アルカエオグロブス属にはいくつかの種が報告されており、それぞれに特徴的な性質や生息環境が見られます。

A. fulgidus：本属の基準種です。1988年に北海油田から初めて発見されましたが、沿岸部の熱水噴出域にも生息が確認されています。生育温度範囲は60℃から95℃（最適83℃）、pH範囲は5.5から7.5（最適6.5）と広範な好熱性を示します。水素と二酸化炭素を利用した独立栄養的な増殖が可能で、増殖には1%から3.5%程度の比較的低濃度の塩分を要求します。約0.6μmのやや不定形な球菌で、一つの極に鞭毛を持っています。1997年には全ゲノム配列が解読されており、古細菌のゲノム研究における初期の重要な対象となりました。

A. infectus：水曜海山海底熱水系から分離されました。主に酢酸を基質として従属栄養的に増殖し、至適増殖温度が約70℃と本属の中では比較的低いのが特徴です。

A. lithotrophicus：石油鉱床に生息し、硫酸塩を還元します。約80℃でよく増殖します。

A. profundus：深海の熱水鉱床から見つかりました。有機物を基質とし、硫酸塩だけでなく亜硫酸やチオ硫酸なども還元して従属栄養的に生育します。鞭毛を持たない種です。生育温度は65℃から90℃の範囲で、82℃が至適温度です。

A. veneficus*：こちらも深海の熱水鉱床に生息します。水素と二酸化炭素を電子供与体・炭素源とし、チオ硫酸塩や硫酸塩を還元する独立栄養生物です。不定形な球菌で、生育温度は65℃から85℃（最適75-80℃）、生育pHは6.5から8.0（最適7.0）と、本属の中ではややアルカリ側に適した性質を持ちます。

これらの種は、極限環境における生命の多様性や、初期生命の代謝経路を理解する上で重要な研究対象となっています。

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