プロテオバクテリア

Pseudomonadota（シュードモナドータ）門

Pseudomonadota門は、細菌の主要な分類群の一つであり、かつてはプロテオバクテリア門として広く知られていました。2021年に国際原核生物命名規約によってPseudomonadota門と改名されました。この門に属する細菌は、光合成、化学合成、独立栄養、従属栄養、好気呼吸、嫌気呼吸、発酵といった極めて多様な代謝様式を示し、自然界における炭素や窒素の固定、物質循環において重要な役割を果たしています。

また、大腸菌、サルモネラ、ビブリオ、ヘリコバクターなど、医学的に重要な病原体も多数含まれています。Pseudomonadota門は、他の細菌と同様に、主にrRNA配列に基づいて定義されており、その多様性の高さから、ギリシャ神話に登場する変幻自在の神プロテウスにちなんで命名されました。

特徴

Pseudomonadota門の細菌は、グラム陰性であり、リポ多糖（LPS）を主成分とする外膜を持ちます。多くの種は鞭毛によって運動しますが、不動性のものや滑走運動を行うものも存在します。特に、滑走運動を行う粘液細菌は、集合して多細胞性の構造体である子実体を形成することで知られています。

代謝型は多岐にわたり、絶対好気性または通性嫌気性の従属栄養細菌が主体ですが、光合成を行う種も存在します。光合成を行う細菌は紅色細菌と呼ばれ、系統的には光栄養と化学栄養の菌種が混在しています。

下位分類

Pseudomonadota門は、2024年現在、List of Prokaryotic names with Standing in Nomenclature（LPSN）によって以下の8つの綱に分類されています。

アルファプロテオバクテリア綱
ベータプロテオバクテリア綱
ガンマプロテオバクテリア綱
デルタプロテオバクテリア綱
イプシロンプロテオバクテリア綱
アシドチオバシラス綱
ヒュドロゲノピルス綱
オリゴフレクスス綱

アメリカ国立生物工学情報センター（NCBI）のデータベースではゼータプロテオバクテリア綱も含まれますが、LPSNではアルファプロテオバクテリア綱に統合されています。

各綱の概要

アルファプロテオバクテリア綱: 光合成細菌、C1化合物を代謝する細菌、植物や動物の共生体（リゾビウム目など）、病原性細菌（リケッチア目など）を含みます。真核細胞のミトコンドリアはこのグループに由来すると考えられています。酢酸菌のアセトバクター属も含まれます。

ベータプロテオバクテリア綱: 好気性または通性嫌気性の細菌で、多様な化合物を分解できます。アンモニア酸化を行うニトロソモナスなどの化学合成無機栄養細菌や、光合成細菌（Rhodocyclus、Rubrivivax属）も含まれます。淋病菌や髄膜炎菌であるナイセリア科、百日咳菌などが含まれます。

ガンマプロテオバクテリア綱: 腸内細菌科、ビブリオ科、シュードモナス科など、医学的に重要な細菌群を含みます。サルモネラ、赤痢菌、エルシニア（ペスト菌）、ビブリオ（コレラ菌、腸炎ビブリオ）、緑膿菌、レジオネラ、肺炎桿菌など、多くの病原体がこの綱に属します。大腸菌も腸内細菌科に含まれます。一部の光合成細菌（紅色硫黄細菌）も含まれます。

デルタプロテオバクテリア綱: 好気性の群（粘液細菌）と、硫酸還元細菌（デスルフォビブリオなど）、硫黄還元細菌（デスルフロモナスなど）、鉄還元性のGeobacterなど、偏性嫌気性の群からなります。ミクソバクテリアもこの綱に含まれます。

イプシロンプロテオバクテリア綱: 湾曲またはらせん形の細菌で、Wolinella、ヘリコバクター・ピロリ、カンピロバクターなどが含まれます。人や動物の消化管に生息する共生体または病原体、あるいは熱水噴出孔に生息する好熱菌として発見されました。

オリゴフレクスス綱: 2014年にサハラ砂漠で発見されたOligoflexus tunisiensisのみが記載されています。




参考文献
* Madigan, Michael; Martinko, John (editors) (2005). Brock Biology of Microorganisms (11th ed. ed.). Prentice Hall. ISBN 0-13-144329-1

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