アルカンタラ射場

ブラジル北東部、マラニョン州アルカンタラの地に位置するアルカンタラ射場（正式名称：Centro de Lançamento de Alcântara, CLA）は、ブラジル空軍によって管理・運用されている主要なロケット打ち上げ施設です。この射場の最も大きな特徴は、地球の赤道に非常に近いという地理的な条件です。赤道付近からの打ち上げは、地球の自転速度を最大限に利用できるため、より少ないエネルギーで静止軌道などの特定の軌道にペイロードを投入することが可能となり、静止衛星の打ち上げにおいて大きなアドバンテージとなります。

施設の建設は1982年に開始され、足掛け8年を経て1990年2月21日に最初の打ち上げが行われました。記念すべき初打ち上げでは、ブラジルが開発した観測ロケット「ソンダ2」シリーズの一機、XV-53が使用されました。その後も観測ロケットの打ち上げが続けられるとともに、1994年にはフランスが開発したOngoron IおよびOngoron IIロケットの試験打ち上げもここで行われています。

アルカンタラ射場は、主にブラジル国内の観測ロケットや、ブラジルが開発を目指した衛星打ち上げロケット「VLS」シリーズの打ち上げに使用されてきました。しかし、ブラジルの宇宙開発史上、忘れられない悲劇がこの地で発生しています。2003年8月22日、打ち上げ準備を進めていたVLS-1ロケットが発射台上で突如爆発炎上するという痛ましい事故が起こりました。この事故により、ロケット周辺で作業にあたっていた技術者や関係者21名が犠牲となり、ブラジルの宇宙開発計画は大きな打撃を受けました。

ブラジルはアルカンタラ射場を国際的な商業打ち上げサービスにも活用しようと模索してきました。その代表的な試みの一つが、ウクライナとの協力です。2003年には、ウクライナ製の衛星打ち上げロケット「ツィクロン-4」をアルカンタラから打ち上げるための契約が締結されました。この計画を進めるため、2006年にはウクライナとの合弁事業として「アルカンタラ・サイクロン・スペース」（Alcântara Cyclone Space）が設立されましたが、計画は様々な困難に直面し、当初予定されていた打ち上げは実現しないまま、2015年7月にこの合弁事業は中止となりました。その後も、ブラジルはウクライナを含む他国のロケット打ち上げを受け入れる可能性を探っています。

比較的最近の出来事としては、2015年11月13日に小型観測ロケットVS-40M V03が発射直後に爆発する事故が発生しましたが、幸いにもこの際には人的な被害はなかったと報じられています。

現在、アルカンタラ射場の将来については、ブラジル政府内で新たな構想が存在します。軍が管理する既存の施設に加え、ブラジル宇宙機関の監督下で民間企業が利用可能な商業打ち上げセンターを近接地に建設する計画です。しかし、この計画は地元の住民、特に歴史的にこの土地で暮らしてきたマルーン（アフリカ系ブラジル人の共同体）の子孫であるキロンボラたちの強い反対に直面しており、用地取得や移転などの問題が解決されていないため、計画の進展は停滞しています。2009年には、当時のブラジル大統領自身が、この地域特有の環境問題や、キロンボラの人々の権利といった社会的な問題が、ロケット打ち上げ活動のスケジュールに影響を与えていることを認めています。このように、アルカンタラ射場は技術的な挑戦だけでなく、歴史的・社会的な課題とも向き合いながら、その運営と将来の展望が模索されている状況にあります。

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