ツィクロン

ツィクロンロケットシリーズ：ソ連・ウクライナの遺産

ツィクロン(Циклон, ラテン文字転写例: Tsiklon)は、ソビエト連邦、そしてその後継国家であるウクライナで開発された使い捨てロケットです。本稿では、ツィクロンとその派生型であるツィクロン-2、ツィクロン-3、ツィクロン-4について詳細に解説します。アメリカ国防総省では、それぞれSL-11、SL-14として分類されています。

ツィクロンの系譜

ツィクロンシリーズの基となったのは、ミハイル・ヤンゲリが設計したR-36 ICBM(NATOコードネーム: SS-9 Scarp)です。この大陸間弾道ミサイルを起源とするツィクロンは、主にコスモス衛星の打ち上げに使用され、バイコヌール宇宙基地から8機の打ち上げが行われました。そのうち7機が成功、1機が失敗という実績を残し、1969年に初期型は退役しました。

ツィクロン-2

ツィクロン-2(Tsiklon-2)またはツィクロン-M(Tsiklon-M)、GRAUインデックス11K69は、全長約40メートル、燃料搭載時の重量は約182トンにも及ぶ大型ロケットです。1969年8月6日の初打ち上げ以降、2006年6月24日の最終打ち上げまで106回の打ち上げを記録しました。失敗はわずか1回という高い信頼性を誇り、アトラスIIに次ぐ高い成功率を達成しました。その信頼性から、長年に渡り人工衛星の打ち上げに貢献しましたが、近代化と全ロシア製のロケットへの移行に伴い退役しました。

ツィクロン-3

ツィクロン-3(Tsiklon-3)、GRAUインデックス11K68は、全長約39メートル、燃料搭載時の重量は186～190トンです。1977年1月24日の初打ち上げから2009年1月30日の最終打ち上げまで、122回の打ち上げ実績があります。しかし、2000年にはロシア製人工衛星6機を搭載したツィクロン-3の打ち上げが失敗。第3段の電気系統の故障が原因と推定されています。ツィクロン-3は、毒性の高いハイパーゴリック推進剤の使用や、全ロシア製ロケットであるアンガラへの移行計画により退役しました。

ツィクロン-4

ツィクロン-4(Tsiklon-4)は、ウクライナの商業衛星打ち上げロケットとして開発されました。ツィクロン-3をベースに、新型の第3段、大型ペイロードフェアリング、改良された誘導装置を搭載し、打ち上げ重量と軌道投入精度が向上しました。低軌道へ5トン、太陽同期軌道へ1.5トンの衛星を打ち上げる能力を有していました。

しかし、ツィクロン-4の開発は数々の困難に見舞われました。2002年に開発が開始され、当初は2006年の初打ち上げを目指しましたが、開発・製造の遅延により、2010年、2012年、2015年と延期が繰り返されました。ブラジルとの国際協力の下、アルカンタラ・ツィクロン・スペース(Alcântara Cyclone Space)が設立されましたが、2015年にはブラジルが計画から撤退、その後、ウクライナの政権交代、資金不足、ロシアとの知的財産問題なども重なり、計画は頓挫しました。

国際協力と政治的背景

ツィクロン-4の開発には、ウクライナとブラジル、そしてロシアが関与しました。ウクライナが設計の95%を所有する一方、ロシアは部品供給などで重要な役割を果たしていました。しかし、ロシアの宇宙開発における覇権主義的な姿勢や、ウクライナの政治情勢の変化、資金難など、様々な要因が絡み合い、ツィクロン-4の開発は成功を収めることができませんでした。このプロジェクトの失敗は、国際宇宙協力の複雑さと、政治的・経済的要因が技術開発に及ぼす影響を如実に示す例と言えます。

技術仕様

ツィクロン-4は、ツィクロン-3の第1段と第2段を使用し、新たに開発された第3段を搭載。RD-861Kエンジンは、再着火機能を備え、3回から5回の再着火が可能でした。西側製の制御装置を採用し、軌道投入精度が向上しています。また、推進剤の補給時の毒性蒸気捕集システムなども採用されており、安全性も考慮された設計となっています。

まとめ

ツィクロンロケットは、ソ連・ウクライナの宇宙開発において重要な役割を果たしたロケットシリーズです。その高い信頼性と技術力は、多くの衛星の打ち上げに貢献しました。しかし、ツィクロン-4の開発における困難は、国際協力の複雑さと、政治・経済的要因が技術開発に与える影響を示すものでした。ツィクロンシリーズの歴史は、宇宙開発における技術革新と国際協力の両面を理解する上で重要な事例となっています。

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