アルコール先生原始時代の巻

『アルコール先生原始時代の巻』（1914年）は、チャールズ・チャップリンが監督・主演を務めた短編サイレント映画です。キーストン社によって製作され、チャップリンのフィルモグラフィーにおいて35作目にあたります。この作品は、チャップリンがキーストン社を去る直前に制作された、記念碑的な作品でもあります。

あらすじ

物語は、チャーリーが公園のベンチで居眠りをして、石器時代の夢を見ることから始まります。夢の中でチャーリーは「弱あご」と呼ばれ、ローブラウ王が支配する国にいます。「弱あご」のチャーリーは、王のお気に入りの妻に手を出してしまい、王に追われる身となります。洞窟に逃げ込みますが、王は大きな岩でチャーリーを殴りつけます。ここでチャーリーは目を覚まし、警官に起こされたことに気づくという夢オチです。

制作の背景

チャップリンは1914年2月にキーストン社でデビューして以来、徐々にその才能を開花させ、会社に利益をもたらす存在となりました。しかし、チャップリンの成功は、セネットをはじめとするキーストン社の幹部たちとの間に、ギャラを巡る軋轢を生みます。

第一次世界大戦勃発の頃、チャップリンはセネットと次のシーズンのギャラについて交渉を開始します。チャップリンは週1000ドルを要求しますが、セネットはこれを拒否。チャップリンは自身の成功を盾に新たな契約を迫りますが、セネットは側近と協議の末、チャップリンの要求をのむことはありませんでした。そのため、チャップリンは契約満了をもってキーストン社を退社し、より高額なギャラを提示したエッサネイ社へ移籍することになります。

『アルコール先生原始時代の巻』は、このような契約満了が迫る時期に製作されました。チャップリンは編集の際に契約問題を思い出して難航したものの、なんとか完成させることができたと自伝で回想しています。編集を終えた2日後、チャップリンは新しい契約先であるシカゴのエッサネイ社へ向かいました。

作品の特徴

この作品は、夢オチという形式をとっています。これは、チャップリンが以前フレッド・カーノー劇団に所属していた頃に出演した芝居『恐れ知らずのジミー』に由来します。また、後年の作品『担へ銃』（1918年）や『独裁者』（1940年）にも、同様の構成が見られます。

時代設定である石器時代は、当時捏造が発覚したピルトダウン人の頭蓋骨発見などによる古代人ブームが背景にあると考えられています。

キャスト

チャールズ・チャップリン - 夢の中で「弱あご」と名付けられた男
マック・スウェイン - ローブラウ王
ジーン・マーシュ - ローブラウ王お気に入りの妻
フリッツ・シェイド - クレオ
セシル・アーノルド - 洞窟の娘
アル・セント・ジョン - 洞窟の男

まとめ

『アルコール先生原始時代の巻』は、チャップリンのキーストン時代を締めくくる作品として、彼の才能と創造性が凝縮された作品といえるでしょう。夢オチという斬新な構成や、石器時代を舞台にした奇抜な設定は、観客に強烈な印象を与えます。また、この作品は、チャップリンが新たな道へと進むための転換点となった作品としても、重要な意味を持っています。

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