アルコーン (グノーシス主義)

アルコーン：グノーシス主義における「偽の神」

アルコーン（Αρχων）は、グノーシス主義において、低位の神的存在を指す言葉で、「偽の神」と解釈されます。その名称は、古代ギリシアのポリスにおける最高執政官の称号と同じであり、「世俗的権力者」の意味が込められていると考えられています。

グノーシス主義におけるアルコーンの概念

グノーシス主義では、アルコーンは低次な霊的存在であり、物質世界、つまりこの世の支配者として位置づけられます。彼らは、超越的な天上界に存在するアイオーン（真の神）とは対照的な存在です。グノーシス主義において、「神」という言葉（ギリシア語：theos、ラテン語：deus）は通常、アイオーンに対しては用いられず、アルコーンとの対比においてのみ、「真の神」という表現が使われます。この表現は、グノーシス主義外部からの視点に基づいていると言えるでしょう。

西方グノーシス主義におけるアルコーン

西方グノーシス主義では、アルコーンは多数存在すると考えられていますが、その中でも「第一のアルコーン」が特に重要視されます。第一のアルコーンは、グノーシス主義における「この世の創造者」であり、デミウルゴスとも呼ばれます。彼は、他のアルコーンたちの源であるとも考えられています。

この第一のアルコーンは、「この世」と「人間」を創造した存在とされ、その傲慢さと低劣さゆえに、彼が創造した世界も人間も不完全なものであるとされました。そのため、物質世界は崩壊しやすく、人間には死という運命が定められているとされます。この世の「悪」の原因は、人間の低劣さと傲慢さにあるとされています。

第一のアルコーンは、ヤルダバオートとも呼ばれ、獅子の姿で描かれることが多く、高次霊であるアイオーンと同様に両性具有であるとされました。ウァレンティノス派の神話では、プレーローマの最低次アイオーンであるソピアーから生まれたとされています（ソピアー神話）。

東方グノーシス主義におけるアルコーン

東方グノーシス主義では、アルコーンは「暗闇の王国」に属する霊的存在とされています。この暗闇の王国に閉じ込められたのは人間であるとされます。東方グノーシス主義では、「この世」と「人間」の起源に関する別の神話が存在します。

まとめ

アルコーンは、グノーシス主義において、物質世界の創造と支配に関わる低位の神的存在として重要な役割を果たしています。彼らは、不完全で崩壊しやすい世界を創造した存在として、しばしば否定的な側面を持つ存在として描かれます。西方グノーシス主義と東方グノーシス主義では、アルコーンに関する解釈が異なる点も興味深いポイントです。

参考文献

荒井献 『原始キリスト教とグノーシス主義』 岩波書店　1971年
ハンス・ヨナス 『グノーシスの宗教』 人文書院　1986年
大貫隆 『グノーシスの神話』 岩波書店　1999年

関連項目

ティマイオス

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