アルスター管弦楽団

アルスター管弦楽団（Ulster Orchestra）

北アイルランドの首府、ベルファストを拠点に活動を展開するアルスター管弦楽団は、この地域において類を見ないプロフェッショナルなオーケストラとして重要な位置を占めています。その名称は、北アイルランドを含むアイルランド島北部の歴史的地名である「アルスター」地方に由来しています。

設立とその歩み

楽団は1966年、北アイルランドの芸術文化振興を担う北アイルランド芸術評議会の主導によって設立されました。創立当初、初代の首席指揮者にはモーリス・マイルズが、そしてコンサートマスターにはヤーノシュ・フュルストがそれぞれ就任し、楽団の礎を築きました。その後、1981年に同じく北アイルランドを拠点としていたBBC北アイルランド管弦楽団が解散した際、アルスター管弦楽団はその多くの奏者を受け入れることで、組織と規模を大幅に強化・拡大することに成功しました。

主な活動拠点と公演

アルスター管弦楽団の主要な活動の場は、本拠地ベルファストにあります。定期演奏会は、市内の主要なコンサート会場であるアルスター・ホールやウォーターフロント・ホールで主に開催されています。これらのホールは、楽団の活動にとって欠かせない場所となっています。

また、アルスター管弦楽団は、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで開催される世界的に有名な音楽祭、BBCプロムスにも積極的に参加しています。1985年以降、ほぼ毎年出演しており、イギリス国内はもとより国際的な認知度を高める上で重要な機会となっています。

録音・放送活動

商業録音にも力を入れており、Chandos、Naxos、Toccata Classicsといった複数のレーベルから多くのアルバムをリリースしています。特にイギリスの作曲家による作品を積極的に取り上げており、その演奏は国内外で高く評価されています。演奏会の模様は、地元のRadio Ulsterや全国放送のBBC Radio 3でもしばしば放送され、より多くの音楽ファンに届けられています。

歴代指揮者と関連アーティスト

アルスター管弦楽団は、その歴史を通じて多くの著名な指揮者と共に歩んできました。歴代の首席指揮者としては、ブライデン・トムソン、ヴァーノン・ハンドリー、ヤン・パスカル・トルトゥリエ、ドミトリー・シトコヴェツキー、ティエリー・フィッシャー、ケネス・モンゴメリーらが名を連ねます。特にヴァーノン・ハンドリーは、首席指揮者退任後も2003年から逝去する2008年まで桂冠指揮者の地位にありました。

首席客演指揮者としても、日本人指揮者の湯浅卓雄（1997年 - 2005年）や、チェリストとしても高名なポール・ワトキンス（2009年 - 2012年）が迎えられた時期があります。

近年では、2011年から2014年まで首席指揮者を務めたジョアン・ファレッタが特筆されます。彼女は楽団史上初めてのアメリカ人かつ女性の首席指揮者であり、その手腕は高く評価されました。

また、楽団は現在、ベルファスト出身の才能あるアーティストたちとも深く連携しています。作曲家のイアン・ウィルソンはアソシエート・コンポーザー（提携作曲家）として、そして世界的なフルート奏者ジェームズ・ゴールウェイは桂冠アーティストとして、それぞれ楽団の活動を側面から支えています。

北アイルランド音楽界における役割

アルスター管弦楽団は、北アイルランド唯一のプロフェッショナル・オーケストラとして、地域の音楽教育、文化振興、国際交流において中心的な役割を果たしています。多様なプログラムを通じて、地元の人々に質の高い音楽体験を提供し続けています。

歴代首席指揮者一覧

モーリス・マイルズ （1966年 - 1967年）
セルジュ・コミッショーナ （1967年 - 1969年）
エドガー・コズマ （1969年 - 1974年）
アラン・フランシス （1974年 - 1976年）
ブライデン・トムソン （1977年 - 1985年）
ヴァーノン・ハンドリー （1985年 - 1989年）
ヤン・パスカル・トルトゥリエ （1989年 - 1992年）
エン・シャオ （1992年 - 1995年）
ドミトリー・シトコヴェツキー （1996年 - 2001年）
ティエリー・フィッシャー （2001年 - 2006年）
ケネス・モンゴメリー （2007年 - 2010年）
ジョアン・ファレッタ （2011年 - 2014年）
ラファエル・パヤーレ （2014年 - 2019年）
ダニエレ・ルスティオーニ （2019年 - 2024年）

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