アルタイルへのメッセージ

「アルタイルへのメッセージ」、正式には「CALL to the COSMOS'83」と呼ばれるこの取り組みは、1983年に実行されたユニークなプロジェクトです。アメリカ合衆国カリフォルニア州スタンフォードに設置された電波望遠鏡から、わし座に輝く恒星アルタイルへ向けて送信された電波メッセージを指します。この企画は、当時創刊15周年を迎えた集英社の週刊少年ジャンプが記念事業として行ったものです。

このメッセージは、二つの異なる情報で構成されていました。一つは、子供たちの音声によるメッセージ。そしてもう一つは、天文学者である森本雅樹氏と平林久氏が特別に考案した13枚のビットマップ画像です。

送信は、日本の伝統的な年中行事である七夕の旧暦にあたる8月15日に行われました。スタンフォードの電波望遠鏡を使用し、音声メッセージと画像メッセージがそれぞれ約30分間かけて、遠く離れたアルタイルに向けて放たれたのです。

送信された13枚の画像には、地球上の生命や文明に関する基本的な情報が込められていました。単純な数や図形の表現から始まり、DNAの構造、さらには多様な生物の形や進化の過程を示すような内容が含まれていたとされます。これらの画像は、71ピクセル×71ピクセルのモノクロームのビットマップ形式で表現されました。画像の縦横サイズに「71」という数が選ばれた背景には、71×71×13（画像の枚数）という計算結果が、コンピューターで扱いやすい2の16乗（65536）に近い値となるという技術的な考慮があったようです。

地球からアルタイルまでは光の速さでも約16.7年かかります。このメッセージがアルタイルに到達したのは、計算上はおよそ2000年頃と推定されています。もしアルタイル周辺に知的生命が存在し、このメッセージを受信・解読できたとしても、その返信が地球に届くまでにはさらに同じだけの時間がかかります。メッセージの考案者の一人である平林氏は、知的生命の存在自体やメッセージ解読の可能性は極めて低いとしながらも、理論上、最短で2017年には返信が地球に届き始める可能性があると述べていました。

平林氏の予測した最短時期を過ぎた後も、この宇宙への呼びかけに対する応答を探る試みは続けられています。森本雅樹氏と生前に交流があった天文学者の鳴沢真也氏は、この壮大なプロジェクトに関心を持ち、アルタイルからの返信観測を目指しました。鳴沢氏は宇宙航空研究開発機構（JAXA）に協力を依頼し、日本国内の観測施設を用いた探索が計画されました。そして、メッセージ送信からちょうど40年後の旧暦の七夕にあたる2023年8月22日、長野県佐久市にあるJAXA臼田宇宙空間観測所の大型パラボラアンテナを用いて、アルタイル方向からの電波を詳細に観測する試みが実施されました。この観測では、特定の信号は見つかりませんでしたが、鳴沢氏は今後もJAXAだけでなく、国内外の他の研究機関とも連携しながら、アルタイルをはじめとする宇宙からの信号を探るSETI（地球外知的生命体探査）の活動を継続していく方針を示しています。

「アルタイルへのメッセージ」は、単なる記念事業という枠を超え、広大な宇宙に存在するかもしれない未知の生命体への、人類からのロマンあふれる問いかけとして、地球外知的生命体探索（SETI）の歴史の中でも特筆すべき事例の一つと言えるでしょう。類似の試みとしては、1974年にアレシボ天文台から送信されたアレシボ・メッセージなどが知られています。現代においても、宇宙へのメッセージ送信やその応答の探求は、人類の宇宙に対する尽きない好奇心を象徴する活動として続けられています。

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