アルテック (家具)

アルテック（Artek）

アルテックは、1935年にフィンランドの建築家アルヴァ・アアルトとその妻アイノ・アアルト、実業家のマイレ・グリッセン、美術史家ニルス・グスタフ・ハールによって設立された家具メーカーです。単なる家具の製造・販売にとどまらず、モダニズム文化の促進を重要な活動目的とし、国内外のモダニズム芸術の紹介にも積極的に取り組みました。社名は「art（芸術）」と「technology（技術）」の融合を意味し、1920年代のモダニズム運動を象徴するキーワードを組み合わせた造語です。日本語ではアルテック社の表記も用いられます。

沿革

1920年代後半から、アアルト夫妻は家具や照明器具のデザインをシリーズ化し始め、1929年以降は家具職人オットー・コルホネンの工場で製作を行いました。1930年代初頭には、スイス、フランス、オランダ、イギリスなどヨーロッパ各国の企業と契約を結び、製品を輸出。1933年のロンドンで開催された「Wood only」展では、アアルト夫妻がデザインした3本脚の椅子「スツール60」が大きな反響を呼びました。当時流行していたパイプ製の家具に対し、木材をモダニズムに取り入れたスツール60は、その革新性で注目を集めました。

この「Wood only」展の成功がアルテック設立のきっかけとなり、アアルト夫妻はインテリア用品を扱う会社としてアルテックを設立しました。共同設立者には、実業家のマイレ・グリッセンと美術史家のニルス・グスタフ・ハールが名を連ねました。設立に際し、ハールは「新しい暮らしの概念を発信する中心となる」と宣言しました。アルテック設立の数日前には、アアルトが設計したヴィボルグ市立図書館が完成し、その内部にはスツール60が使用されました。

1936年にはヘルシンキに直営店がオープン。新しい文化の発信地として機能しました。同年、ミラノ・トリエンナーレのフィンランド館では、アイノ・アアルトがアルテックの家具を展示し、グランプリを受賞。アイノはその後、アルテックのアートディレクター、そして社長に就任しました。アルテックの目標は、アートとテクノロジーの融合を通じて工業生産された製品を日常生活に提供することでした。この目標は、アルヴァ・アアルトの友人であり、スウェーデンの美術史家グレーゴル・ポールソンが1919年に提唱した「より良いものを毎日の生活に」という言葉に影響を受けています。アルテックはグローバルに活動を展開し、特許を取得したアアルトの家具は国際的に高い評価を受けました。

アルテックの家具デザインは、アアルトがデザインしたものを中心としつつ、近年ではイルマリ・タピオヴァーラやウルヨ・クッカプロといったフィンランドのデザイナーの作品も含まれています。さらに、海外のデザイナーとの協同制作も積極的に行っています。坂茂の「10-UNIT SYSTEM」（2009年）、コンスタンチン・グルチッチの「ライバル」（2014年）、ロナン&エルワン・ブルレックの「カアリ」（2015年）などがその例です。

製品、事業

アルテックの家具の特徴は、機能的なデザイン、フィンランド産の素材へのこだわり、技術と職人技の融合、そして曲げ木技術の活用です。2018年時点においても、創業当時と同様にフィンランドのトゥルクで生産、販売が行われています。素材のほとんどはフィンランド産の白樺材（バーチ材）で、樹齢約80年のものが選ばれています。アルテックが創業した1930年代は、フィンランドの産業発展期であり、素材の輸入が困難であったため、国内資源の活用が求められていました。

技術

アルヴァ・アアルトは1920年代後半から曲げ木技術の開発に取り組み始めました。1928年、パイミオのサナトリウムの建築とともに内装を手がけた際、当初検討していたスチールパイプの代わりに、療養施設にふさわしい温かみのある素材として曲げ木を使用することを試みました。プライウッドと呼ばれる合板を整形・加工する技術は19世紀から存在していましたが、アアルト夫妻はプライウッドを椅子の背もたれや座面に活用しました。

これにより、曲げ木を用いたパイミオ・チェア（41アームチェア パイミオ）やキャンチレバーチェア（42アームチェア）が誕生しました。キャンチレバーチェアは、ラメラ曲げ木という技術を用いて製造されました。これは、数ミリにカットした白樺材を木目と同じ方向に重ねて曲げる技法です。パイミオ・チェアは、ラメラ曲げ木のフレームに合板の座板と背板を組み合わせた構造で、座面が宙に浮いたようなデザインが特徴です。クッション張りなしでも快適な座り心地を実現しました。アルテック設立以前、これらの椅子はフォカネル・テヘダスで製造・販売されていました。ループ型のラメラ曲げ木は、パイミオ・チェアの他、ティー・トローリー、傘立て、サイドテーブルなどにも使用されました。

「スツール60」には、L-レッグと呼ばれる曲げ木が使用されています。これは、脚の材料となる無垢材の先端から曲げる部分まで数ミリ間隔の切れ目を入れ、その間に薄い板を挟んでから曲げるという方法です。これにより、厚みのある無垢材を曲げることが可能になり、強度と耐久性が向上しました。円形の座面には複雑な接合をせず、3本の脚を直接ネジで固定しました。L-レッグは、テーブル、椅子、スツールなど様々な家具の脚に使用でき、パーツに分割できるため輸送の合理化にも貢献しました。「スツール60」は、文化施設、教育施設、住宅など、幅広い場所で使用され、4脚の「スツール E60」を含めると、販売数は数百万脚に達しています。1946年にはL-レッグをベースにしたY-レッグ、1954年にはX-レッグも開発されました。

アルテックの家具デザインを実現する上で、家具職人オットー・コルホネンの存在は欠かせませんでした。伝統的な家具職人だったコルホネンは、トゥルクでアアルトと出会い、共同制作を行い、L-レッグの実現に協力しました。2015年時点では、コルホネンのひ孫がその仕事を継いでいます。工場での生産は完全なオートメーションではなく、多くの工程で職人の手が加わっています。

美術活動

アルテックは、モダニズム文化の促進の一環として、国内外のモダンアートの紹介にも力を注ぎました。アルテックのプロデュースとグリッセンの主催による「フランス芸術展」（1938年）は、フィンランド初の女性主催の展覧会として注目を集めました。フェルナン・レジェやアレクサンダー・カルダーの個展は高い評価を受けました。1950年代には、フィンランドのモダニストや抽象芸術の展覧会も主催し、サム・ヴァンニやビルエール・カールステットらの紹介に貢献しました。グリッセンは、フランスの芸術教育に親しんだ経験から、入学試験がなく、海外からの教員招聘にも力を入れた自由芸術学校の設立にも関わりました。1950年にはギャラリー・アルテックが開設され、アート活動が事業化され、1990年代まで運営されました。

もう一度検索