アルドースレダクターゼ

アルドースレダクターゼ

アルドースレダクターゼ（Aldose reductase）は、生体内の炭水化物代謝において重要な役割を担う酵素の一つです。この酵素は、別名アルデヒドレダクターゼ（aldehyde reductase）とも呼ばれ、アルドースと呼ばれる一群の糖を、対応する糖アルコールへと還元する化学反応を触媒します。

酵素反応

アルドースレダクターゼの働きには、NADP（ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド・リン酸）という補酵素が不可欠です。具体的には、還元型のNADPH（ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド・リン酸・水素）を電子源として利用し、アルドースを還元します。この過程でNADPHは酸化型のNADP+に変換されます。

代表的な反応としては、以下のものが挙げられます。

グルコース（アルドースの一種）をソルビトール（糖アルコール）へ変換
`グルコース + NADPH + H+ → ソルビトール + NADP+`
ガラクトース（アルドースの一種）をガラクチトール（糖アルコール）へ変換
`ガラクトース + NADPH + H+ → ガラクチトール + NADP+`

生理的機能

アルドースレダクターゼによって生成されるソルビトールなどの糖アルコールは、体の様々な臓器で重要な役割を担っています。特に、グルコースからフルクトースを合成する「ポリオール経路」の最初のステップとして機能します。この経路では、まずアルドースレダクターゼがグルコースをソルビトールに変換し、続いてソルビトールデヒドロゲナーゼという別の酵素がソルビトールをフルクトースに変換します。

通常、細胞がグルコースを代謝する主経路は、ヘキソキナーゼによるリン酸化から始まる経路ですが、この経路はATPを消費します。一方、ソルビトール経路はATPを必要としないため、特定の条件下や組織においては有利な代謝経路となり得ます。

ポリオール経路で合成されたフルクトースは、組織特異的なエネルギー源や代謝中間体として利用されます。例えば、精嚢では精子のエネルギー源として、肝臓では解糖系や糖新生の基質として使われます。

アルドースレダクターゼは、これらの組織以外にも、水晶体、網膜、神経を包むシュワン細胞、胎盤、そして赤血球など、体の様々な部位に存在しています。

糖尿病との関連

糖尿病患者においては、しばしば血液中のグルコース濃度が著しく上昇します。このような高血糖状態が続くと、アルドースレダクターゼの活性が高まり、細胞内、特にインスリン非感受性の組織でソルビトールが過剰に蓄積することが知られています。ソルビトールの蓄積は、細胞の浸透圧バランスを崩したり、他の代謝異常を引き起こしたりすることで、神経障害、網膜症、腎症などの糖尿病合併症の発症や進行に深く関与していると考えられています。

このため、アルドースレダクターゼの働きを阻害する薬剤（アルドース還元酵素阻害剤）の開発が進められてきました。多くの候補薬が臨床試験を経て実用化には至りませんでしたが、日本で開発されたエパルレスタットのように、実際に糖尿病合併症の治療薬として用いられている薬剤も存在します。

関連項目

ソルビトール
酸化還元酵素
* ポリオール経路

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