アルビレオ・モード

アルビレオ・モード（Albireo Mode）

「アルビレオ・モード」は、日本の作曲家、吉松隆が2004年から2005年にかけて作曲した、独奏ソプラノ・サクソフォーンと管弦楽のための協奏曲です。サクソフォーン奏者の須川展也からの委嘱によって制作されました。

作曲の背景と委嘱

吉松は、1994年にも須川の依頼でアルト・サクソフォーン協奏曲「サイバーバード協奏曲」を手がけています。再びサクソフォーン協奏曲の依頼を受けた際、当初は再度の作曲にあまり積極的ではなかったとされています。しかし、前作で用いたアルト・サクソフォーンではなく、ソプラノ・サクソフォーンのための協奏曲として提案されたことで、作曲を引き受けることになりました。

楽曲の着想とタイトル

吉松にとってソプラノ・サクソフォーンは、ジャズ界の伝説的人物であるジョン・コルトレーンと、独特な音色を持つヤン・ガルバレクという二人のプレイヤーのイメージと結びついていました。このことから、クールで美しい「ガルバレク・モード」と、情熱的で深遠な「コルトレーン・モード」という、対照的な性格を持つ二つの楽章からなる協奏曲という構想が生まれました。

そして、このソプラノ・サクソフォーンが持つ二面性を象徴するものとして選ばれたのが、白鳥座にある美しい二重星、アルビレオ（Albireo）でした。アルビレオは、色の異なる二つの星から成り立っており、この二重星にちなんで、楽曲は「アルビレオ風の様式」や「アルビレオ風の旋法」といった意味合いを込めて『アルビレオ・モード』と名付けられました。

作品は二つの楽章で構成されており、それぞれの楽章には宝石の名前が標題としてつけられています。

第1楽章「トパーズ」：クール＆ビューティな「ガルバレク・モード」に対応します。
第2楽章「サファイア」：ホット＆ディープな「コルトレーン・モード」に対応します。

アルビレオの二つの星をトパーズとサファイアという宝石に見立てる発想は、宮沢賢治の有名な童話『銀河鉄道の夜』における描写を連想させます。

編成

この協奏曲は、以下の楽器編成で演奏されます。

独奏：ソプラノ・サクソフォーン
管弦楽：フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、トロンボーン2、打楽器3、ハープ、ピアノ、弦楽合奏

初演と再演

本作は、2005年4月29日にザ・シンフォニーホールで開催された関西フィルハーモニー管弦楽団の第173回定期演奏会にて初演されました。この記念すべき演奏会では、須川展也が独奏を務め、藤岡幸夫の指揮によって関西フィルハーモニー管弦楽団が演奏しました。定期演奏会の前半最後の曲として披露されました。

また、翌年の2006年9月に行われた須川展也サクソフォン協奏曲コンサートでも、プログラムの後半最初に演奏されています。

エピソード

初演にまつわるいくつかのエピソードがあります。

須川展也は、2005年の初演前日、難易度の高いカデンツァを練習中に、サクソフォーンのオクターヴキーを押さえる親指のタコをつぶしてしまいましたが、本番ではその痛みを忘れるほどの集中力で演奏を成功させたと語っています。
指揮者の藤岡幸夫は、曲名にある「アルビレオ」が星の名前であることを、初演の当日に知ったそうです。須川や吉松が天文学に詳しかったのに対し、藤岡は気象の分野に造詣が深かったためです。
* 吉松隆は、初演前の舞台上でのトークにおいて、この「アルビレオ・モード」という作品は、須川展也と藤岡幸夫という二人の音楽家との出会いがなければ生まれなかった曲であると述べています。

これらのエピソードは、作品が演奏家や指揮者との緊密な関係性の中で生まれたことを示唆しています。

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