アルビール

イラク北部クルド人自治区の要衝、アルビール

アルビール（أربيل‎; Arbīl）は、イラク北部に位置する都市で、クルド人自治区の主都として知られています。別名として、IrbilやErbilとも表記され、クルド語ではHewlêr（ヘウレール）と呼ばれています。日本では「アルビル」という表記が一般的ですが、アラビア語やクルド語の発音では「アルビル」に近い音になることもあります。

古代からの歴史を持つ都市

アルビールの歴史は非常に古く、先シュメール時代から人類が居住していたとされています。その長い歴史の中で、様々な民族や言語が入り混じり、その結果として、Irbilum、Urbilum、Urbel、Arbail、Arbira、Arbela、Erbil/Arbilなど、数多くの名前で呼ばれてきました。

紀元前331年には、アレクサンドロス大王がダレイオス3世率いるアケメネス朝を破ったガウガメラの戦いの主要な合戦場となった場所でもあります。また、1世紀にはユダヤ教を受容したアディアベネ王国の都が置かれていました。

近代の発展

2003年のイラク戦争でフセイン政権が崩壊し、2005年に連邦制を規定した新憲法が制定されました。そして2006年にはクルド自治政府が正式に発足し、アルビールはクルド人自治区の主都としての役割を担うことになりました。

アルビールの旧市街中心には、カラアトと呼ばれる古い城塞（アルビールの城塞）があり、そこから放射線状に街が広がっています。また、旧市街とは別に、幹線道路沿いには高層ビルが立ち並ぶ新市街地が発展しています。

経済成長

アルビールは、爆弾テロが頻発する首都バグダードとは対照的に治安が大幅に改善しており、ヨーロッパやアメリカ合衆国、トルコなどからの外国企業の進出が相次いでいます。日本を含む各国企業もイラク進出の窓口としてアルビールを利用しています。2017年には、市内に日本の領事事務所が開設されました。

また、クルド自治政府は、イラク中央政府とは一線を画した独自の油田開発を進めており、石油資源の輸出から得られる資金を背景に経済成長を続けています。中東屈指の商業都市ドバイのエマール・プロパティーズも開発に乗り出すなど、「第2のドバイ」とも呼ばれるほど、その経済成長には目覚ましいものがあります。

治安状況

過去には、多国籍軍やクルド人に対するアラブ過激派のテロが多発し、2004年には109人が死亡する大規模な爆弾テロが発生しました。しかし、現在ではクルド自治政府や主要政党、各国領事館、外国企業などが集中しており、市の出入口には検問が敷かれ、警備体制も厳重になっています。

また、住民の大部分がイスラム教スンニ派のクルド人であり、宗派間対立が少ないため、イラク国内の他地域とは異なり、テロ事件の発生が限定的であるなど、比較的安定した状況が続いています。日本の外務省が発出するイラクに対する渡航情報においても、アルビール周辺は「渡航の是非を検討してください」と、他の地域よりも危険情報が緩和されています。

ただし、2014年には過激派組織ISILの武力攻撃を受け、2015年にはアメリカ領事館付近で自動車爆弾テロが発生、2021年にはアメリカ軍基地近くで武力攻撃が発生するなど、不安定な状況も残っています。

気候と交通

アルビールの気候は地中海性気候（Csa）に属し、夏は非常に暑く、冬は湿潤です。降水量は1月が最も多くなっています。

市内にはアルビール国際空港があり、クルド人地域の空の玄関口として機能しています。2005年には、長大な滑走路と新しいターミナルビルを備えた新空港が開港し、近年では国際線の便数も増加しています。

かつてはアルビールとキルクーク、バグダッドを結ぶ小型鉄道が存在していましたが、1988年に廃止されました。現在はアルビールからモスル、ザフーを経てトルコに至る路線の計画が進められています。

アルビールは、歴史と現代が融合する魅力的な都市であり、その今後の発展が注目されます。

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