キルクーク

キルクークはイラク北部に位置する都市で、キルクーク県の県都です。バグダードから北へ約236km、モースルの南東約149kmに位置し、イラクの石油産業において重要な役割を担っています。2009年の推定人口は約85万人です。

歴史

キルクークの歴史は、1927年に近郊で発見されたキルクーク油田の存在に大きく影響されています。1934年にはイラク石油会社によって生産が開始され、以来、この地域は石油産業の中心地となりました。

キルクークは伝統的にクルド人やトルクメン人など、多様な民族が共存する都市として知られていました。しかし、1980年代にサッダーム・フセイン政権によるアラブ化政策が実施され、多くのクルド人やトルクメン人が強制的に郊外へ移住させられました。その結果、都市の住民構成はスンニ派アラブ人が大半を占めるようになりました。

1991年の湾岸戦争後、国際連合の「石油と食料の交換プログラム」により、キルクークはイラクの主要な原油輸出ルートの一つとして重要な役割を果たしました。特に、キルクークからトルコのジェイハン港を結ぶキルクーク・ジェイハン石油パイプラインは、イラクの原油輸出における重要なインフラでした。

2003年のイラク戦争では、アメリカ軍の支援を受けたクルド人民兵組織「ペシュメルガ」がキルクークを解放しました。しかし、サッダーム政権崩壊後、クルド人主体の治安部隊によるアラブ人に対する報復行為が発生し、国際機関からは「民族浄化」との批判も受けました。クルド人側は、キルクークがクルディスタン地域の一部であると主張し、住民投票による編入を求めています。一方で、アラブ人住民の反発は強く、石油利権も絡み、イラクの深刻な民族・宗派対立の根源となっています。

イラク政府は、旧政権下でキルクークに移住したアラブ人に対し、元の居住地への帰還を促しており、帰還者には政府から保証金が支払われています。近年、キルクークではクルド人の人口が増加しており、かつての15万人から35万人以上に増加したとされています。

2014年6月には、過激派組織ISILのモースル制圧に乗じて、クルド人勢力がキルクークを制圧しました。その後もISILは石油利権を狙ってキルクークへの攻撃を繰り返しており、激しい戦闘が繰り広げられています。

2019年12月には、キルクーク近郊のイラク軍基地が武装勢力によるロケット弾攻撃を受け、アメリカの民間人が死亡しました。アメリカは、この攻撃をヒズボラによるものと非難し、報復爆撃を行っています。この攻撃の応酬は、後に発生したバグダード国際空港攻撃事件の一因となりました。

地理

キルクークはザグロス山脈の麓に位置しており、市内にはチグリス川の支流であるカサ川が流れています。

気候

キルクークは半乾燥気候に属しており、夏は非常に暑く、冬は比較的温暖です。6月から9月にかけては最高気温が38℃を超える一方、12月から5月にかけては20℃を下回ります。降水量は年間を通して少なく、特に6月から9月にかけてはほぼゼロに近い状態です。

経済

キルクークの経済は、周辺の油田から産出される原油に大きく依存しています。キルクーク・ジェイハン石油パイプラインやキルクーク・バニヤース石油パイプラインを通じて原油が輸出されています。

農業も盛んで、小麦、大麦、果物などが栽培されています。また、羊毛の集散地でもあり、牧畜も行われています。

交通

キルクークにはキルクーク空港があり、首都バグダードとは鉄道で結ばれています。

教育

キルクークにはキルクーク大学があります。

スポーツ

サッカーが盛んであり、キルクークFCというサッカークラブが存在します。

施設・歴史的建造物

キルクーク要塞は、この都市の歴史を物語る重要な建造物の一つです。

主な出身者

キルクーク出身の著名人には、バクル・シドキやユニス・マフムードなどがいます。

関連項目

キルクーク県、クルディスタン地域、アラプハなどの関連事項があります。

キルクークは、石油資源に恵まれている一方で、民族間の対立や紛争が絶えない地域です。今後の政治情勢や民族間の関係が、この都市の発展に大きく影響を与えると考えられます。

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