アルファ崩壊

アルファ崩壊とは

アルファ崩壊（α崩壊）は、不安定な原子核がアルファ粒子（ヘリウム4の原子核）を放出して、より安定な状態へと変化する放射性崩壊の一種です。この現象は、量子力学におけるトンネル効果によって説明されます。アルファ崩壊は、原子核物理学において重要な概念であり、放射性物質の挙動を理解する上で欠かせません。

アルファ崩壊のメカニズム

アルファ崩壊は、原子核内の陽子2つと中性子2つが結合したアルファ粒子が、原子核から放出される現象です。このとき、原子核の質量数は4減少し、原子番号は2減少します。例えば、ウラン238（²³⁸U）がアルファ崩壊すると、トリウム234（²³⁴Th）とアルファ粒子（⁴He）に変化します。


²³⁸U → ²³⁴Th + ⁴He


アルファ粒子は、原子核内で働く核力（強い力）を上回るエネルギーを持っているわけではありません。アルファ崩壊は、量子力学的なトンネル効果によって、アルファ粒子がエネルギーの壁を通り抜けて原子核から飛び出すことで起こります。一度原子核外に出たアルファ粒子は、原子核との間に働く電磁気的な斥力によって加速され、高速で原子の外へ放出されます。

アルファ崩壊を起こす元素

アルファ崩壊は、主に重い原子核で起こります。ウラン系列などの崩壊系列においては、特定の元素がアルファ崩壊を起こします。例えば、ウラン238（²³⁸U）、ウラン234（²³⁴U）、トリウム230（²³⁰Th）、ラジウム226（²²⁶Ra）、ラドン222（²²²Rn）、ポロニウム218（²¹⁸Po）、ポロニウム214（²¹⁴Po）、ポロニウム210（²¹⁰Po）などが挙げられます。これらの元素は、半減期が異なり、短いものから長いものまで存在します。

半減期が短いほど、放射能は短期間で強くなり、半減期が長いほど、放射能は長期間にわたって弱く続きます。ポロニウム210は、アレクサンドル・リトビネンコ暗殺事件で、体内被曝による死因として注目されました。

アルファ崩壊と核分裂

アルファ崩壊は、一つの原子核が二つに分裂する現象と捉えることもできます。ただし、核分裂のように原子核が大きく分裂するのではなく、アルファ粒子という小さな粒子を放出する点が異なります。アルファ崩壊は、原子核の安定性を変化させ、他の放射性崩壊へとつながることもあります。

関連事項

アルファ崩壊は、放射性崩壊の一つであり、ベータ崩壊やガンマ崩壊と並んで、原子核の不安定性を解消する重要なメカニズムです。アルファ粒子は、その質量が大きいため、物質との相互作用が強く、透過力は低いという特徴があります。アルファ崩壊は、ガイガー・ヌッタルの法則やトンネル効果などの物理学の基本原理に基づいています。

参考資料

ウェード・アリソン『放射能と理性-なぜ「100ミリシーベルト」なのか』徳間書店、2011年。ISBN 978-4-19-863218-2。
富永健、佐野博敏『放射化学概論』（第4版）東京大学出版会、2018年。ISBN 978-4-13-062512-8。
エンリコ・フェルミ 著、小林稔 編『原子核物理学』吉岡書店、1954年。
G. Gamow (1928), Zur Quantentheorie des Atomkernes, http://www.nssp.uni-saarland.de/lehre/Vorlesung/Kernphysik_SS13/History/Papers/Gamov.pdf
山田 勝美『原子核はなぜ壊れるか 放射性崩壊の鍵』丸善出版、1987年。

関連項目

放射性崩壊
ベータ崩壊
ガンマ崩壊
[アルファ粒子]
ガイガー・ヌッタルの法則
トンネル効果
井戸型ポテンシャル

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