アルフレッド・エドワード・シャロン

スイスに生まれ、後にイギリスで活躍した画家、アルフレッド・エドワード・シャロン（Alfred Edward Chalon RA、1780年2月15日 – 1860年10月3日）は、特にヴィクトリア女王の公式肖像画を手がけたことで知られています。この肖像画は、そのデザインが19世紀半ば以降、カナダやニュージーランドをはじめとする多くのイギリス植民地で発行された郵便切手に採用され、「シャロン・ヘッド」という名で広く認識されることとなりました。彼の芸術は、当時のイギリス社会の上流階級に評価される一方で、切手デザインという形で世界中の人々に触れる機会を提供した点で特筆されます。

アルフレッド・エドワード・シャロンは、1780年2月15日にスイスのジュネーヴで生を受けました。彼にはジョン・ジェームズ・シャロン（1778年-1854年）という兄がおり、後に彼もまた画家や版画家として名を残しています。シャロン一家の生活は、1790年代初頭に大きな転機を迎えます。彼らの父がイングランドのバッキンガムシャーにあるサンドハースト王立陸軍士官学校の教授に任命されたため、家族全員でイギリスへと移住することになったのです。この移住は、アルフレッドが後にイギリスの美術界でキャリアを築く上で重要な一歩となりました。

イギリスに定住した後、彼は美術の道を志します。1797年からは、権威あるロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ付属の美術学校で水彩画を専攻し、その技術を磨きました。彼の才能は次第に認められるようになり、特に上流階級の人々を描いた肖像画で高い評価を獲得します。肖像画家としての名声が高まるにつれて、彼はイギリス美術界の中心的な存在となっていきました。その実力が評価され、1812年にはロイヤル・アカデミーの準会員に選出され、さらに1816年には正会員としての地位を得ました。これは、彼が当時のイギリス画壇において確固たる地位を築いたことを示しています。

彼のキャリアにおける最も有名な依頼の一つが、1837年のヴィクトリア女王の肖像画制作です。この作品は、女王が母親に贈るために描かれたもので、正装して議会で初めて公務を行う姿を捉えたものです。シャロンは、若き女王の威厳と気品を見事に描き出しました。この肖像画は、制作の翌年、すなわち1838年の女王の戴冠式の日に、著名な版画家サミュエル・カズンズ（1801年-1887年）によって版画として出版され、これにより作品の存在が広く世に知られることとなりました。原画の持つ魅力に加え、版画技術による複製が可能になったことで、この肖像画は瞬く間に有名になります。

このヴィクトリア女王の肖像画は、単に有名な絵画として留まるだけでなく、その後の歴史に意外な形で影響を与えました。1850年代に入ると、この肖像画に着想を得た、王冠をつけたヴィクトリア女王の頭部像が、多くのイギリス植民地で発行される郵便切手のデザインとして採用されることになったのです。アメリカで活動した版画家ウィリアム・ハンフリーズ（1794年-1865年）らが、この切手デザインの制作に関わったことが知られています。カナダやニュージーランドをはじめ、大英帝国の広範な地域でこのデザインが用いられ、これらの切手は今日「シャロン・ヘッド」と総称されています。これは、シャロンの芸術作品が、通信手段という実用的なアイテムを通じて、世界中にその影響を広げたユニークな例と言えます。

私生活においては、アルフレッド・エドワード・シャロンは兄のジョン・ジェームズと共に生涯を独身で過ごしました。二人は互いを支え合いながら芸術活動を続けたようです。1860年10月3日、アルフレッド・エドワード・シャロンはロンドンのケンジントンにあるカムデン・ヒルでその生涯を閉じました。彼の遺体は、ロンドンの歴史あるハイゲイト墓地に静かに埋葬されました。画家としての確かな技量と、ヴィクトリア女王の肖像画、そしてそれが生んだ「シャロン・ヘッド」切手を通じて、彼の名は美術史だけでなく郵便史においても重要な位置を占めています。

もう一度検索