アルベルト・バルガス

アルベルト・バルガス：ピンナップの巨匠とその波乱に満ちた生涯

アルベルト・バルガス（1896年～1982年）は、ペルーのアレキパ県に生まれたアメリカ合衆国のイラストレーターです。彼の名は、第二次世界大戦中に兵士たちの心を捉えた、官能的な魅力をたたえたピンナップ・ガール、「バーガ・ガール」と深く結びついています。

バルガスの才能は幼少期に芽生えました。著名な写真家である父マックス・T・バルガスから13歳の時にエアブラシの技術を学び、その卓越した描写力は、後に彼の代名詞となるでしょう。第一次世界大戦前にはヨーロッパで絵画を学び、パリではラファエル・キルシュナーのエロティックな画風を深く傾倒。その影響は、後の彼の作品に色濃く反映されています。

1916年、アメリカ合衆国に移住したバルガスは、ハリウッドで活躍を始めます。「ジーグフェルド・フォリーズ」といった舞台の仕事や、映画スタジオでのポスター制作、セットデザインなど多岐に渡る活動を行い、その才能を開花させました。中でも1933年の映画『ノーラ・モランの罪』のポスターは、主演女優ジータ・ジョアンのほぼ全裸の姿を描いたセンセーショナルな作品として、映画史に残る傑作の一つと評されています。

1930年には、長年彼のモデルを務めていたアンナ・メイ・クリフトと結婚。そして1940年代、バルガスの名を世界へと轟かせる転機が訪れます。それは、第二次世界大戦中のアメリカで発行された『エスクァイア・マガジン』に発表された「バーガ・ガール」シリーズです。これらの作品は、アメリカ兵士たちに絶大な人気を博し、戦闘機の機首などに描かれる「ノーズアート」にも大きな影響を与えました。しかし、「バーガ」の名称使用をめぐる訴訟で敗訴したバルガスは経済的に苦境に陥ります。

その後、1960年代に『プレイボーイ』誌が「バーガ・ガール」を掲載したことで、バルガスは再び脚光を浴び、世界的な知名度を獲得しました。しかし、1974年に妻アンナ・メイを失ったバルガスは、しばらくの間絵を描くことをやめてしまいます。1978年に自叙伝を出版したことで再び注目を集め、断続的に作品を発表。バーナデット・ピーターズやカーズのアルバムカバーなども手がけました。

1982年、脳卒中のため86歳で生涯を閉じます。現在、彼の『エスクァイア・マガジン』時代の作品の大部分は、カンザス大学スペンサー美術館に所蔵されています。2003年には、クリスティーズオークションで彼の作品が過去最高額で落札されるなど、その芸術的価値は現在も高く評価されています。

バルガスの作品は、水彩とエアブラシを巧みに用いた繊細な描写が特徴です。特にエアブラシの技術は卓越しており、「Airbrush Action Magazine」誌が主催するエアブラシの達人に贈られる「バルガス賞」として、その名を残しています。セミヌードやヌードを描きながらも、エレガントな衣装を巧みに重ねることで、女性の体のラインを美しく際立たせる独特の手法は、彼の作品の魅力の一つです。指先やつま先を細く描き、マニキュアを赤くするといったこだわりも、彼の作品に見られる特徴です。

オリーヴ・トーマス、ビリー・バーク、ニタ・ナルディ、マリリン・ミラー、ポーレット・ゴダード、ルース・エティング、シャーリー・テンプルといった著名な女性たちをモデルに迎え、数々の傑作を生み出しました。ミス・ユニバースの審査員を務めた経験もあるバルガスは、ピンナップ・アート界における最高のアーティストの一人として、今日でも広く称賛されています。彼の作品は、時代を超えて人々を魅了し続ける、永遠の芸術として輝き続けています。

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