アルメニア人のディアスポラ

アルメニア人ディアスポラ：離散の歴史と現状

アルメニア人ディアスポラは、その規模と歴史において、ユダヤ人と並ぶ代表的な離散民族として知られています。全世界に約750万人のアルメニア人が存在しますが、そのうち本国に住むのは4割程度に過ぎません。この離散状態は、アルメニア語で「スピュルク」と呼ばれます。

歴史

中近世

アルメニア人ディアスポラの形成は、11世紀のバグラトゥニ朝アルメニア王国の滅亡に端を発します。この頃から、バルカン半島や地中海沿岸への移住が始まり、数世紀を経て西ウクライナ、イタリア、オランダなどにコミュニティが形成されました。14世紀のキリキア・アルメニア王国の滅亡と地中海貿易の拡大は、ヴェネツィア、イスタンブール、カイロといった都市にアルメニア人の商業コミュニティを発展させました。

西方のアルメニア人が海上貿易で栄える一方、東方のアルメニア人はシルクロードを介した陸上貿易で活躍しました。17世紀には、サファヴィー朝の寛容な政策のもと、エスファハーンを中心にインド洋へと進出し、ムンバイ、マドラス、コルカタなどにも商業拠点を築きました。初期の西方への移住者たちは現地に同化していきましたが、東方のアルメニア人は独自性を維持しながら、第一次世界大戦頃まで商活動を続けました。

近現代

初期のディアスポラは商活動の拡大に伴うものでしたが、1915年のオスマン帝国によるアルメニア人虐殺は、新たな移民の波を強制的に作り出しました。この虐殺の記憶は、宗教や言語に代わって、ディアスポラにおけるナショナル・アイデンティティの重要な要素となりました。

虐殺後、アルメニアは独立国家を樹立しましたが、すぐにソビエト連邦に支配されました。ソビエト・アルメニアを巡っては、在外アルメニア人の間で反共派と容共派の対立が激化し、要人暗殺や教会組織の分裂にまで発展しました。ソビエト時代には、多くの在外アルメニア人が帰国しましたが、差別や迫害を受け、シベリアへ流刑されることもありました。

近年

ソ連崩壊後、アルメニアが独立すると、在外同胞の専門家たちが政府に積極的に起用されました。しかし、旧ソ連出身者とそれ以外の在外同胞の間には、いまだに壁が存在します。また、ナゴルノ・カラバフ戦争による経済制裁で、帰国したディアスポラの中には、経済状況を見限って欧米へ再移住する人もいます。独立後、多くのアルメニア人が再び海外へ流出しており、新たなディアスポラの拡大が懸念されています。

アルメニア人ディアスポラの現状

アルメニア人ディアスポラは、商業活動を通じて世界中に拡散し、独自の文化とアイデンティティを形成してきました。しかし、虐殺の記憶や政治的な対立、経済的な問題など、多くの課題も抱えています。独立後のアルメニアは、ディアスポラとの連携を強化し、民族の発展を目指していますが、その道は容易ではありません。

まとめ

アルメニア人ディアスポラは、歴史的な出来事と商業活動を通じて世界中に広がりました。彼らは離散の中で独自の文化とアイデンティティを育み、現在もその活動は続いています。しかし、過去の悲劇や社会情勢の変化によって、多くの課題を抱えている現状も無視できません。

この歴史と現状を理解することは、アルメニアという国と文化をより深く知る上で重要です。

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