アレキサンダー・セルカーク

アレキサンダー・セルカーク（1676年 - 1721年 12月13日）は、スコットランド出身の水夫であり、船上での対立をきっかけに南太平洋の無人島で長期にわたる孤立した生活を送った人物です。彼の類まれな遭難体験は、後に小説家ダニエル・デフォーによって書かれた有名な物語、『ロビンソン・クルーソー』の着想源の一つになったと考えられています。

若年時代から船乗りへ

セルカークは1676年、スコットランドのファイフ州にあるロウアー・ラルゴ村で、靴職人兼製革業者を営む父のもとに生まれました。若い頃は大変な血気盛んで、しばしばトラブルを起こしたようです。特に1695年には、教会での不敬な振る舞いを理由に長老会議への召喚を受けましたが、彼はこれに応じず、故郷を離れて船乗りの道へと進みました。

彼は当初、南洋を目指す海賊の遠征に加わりました。そして1703年には、著名な私掠船の船長であり探検家でもあったウィリアム・ダンピア率いる遠征隊に参加します。ダンピア自身がセント・ジョージ号の指揮を執る中、セルカークは僚船であるガレオン船シンク・ポーツ号に乗船し、船長トーマス・ストラドリングのもとで航海長の任を務めました。

孤島への置き去り

遠征途中の1704年10月、シンク・ポーツ号はセント・ジョージ号と離れた後、食料や水を補給するためにファン・フェルナンデス諸島（現在のチリ沖）にある無人島に立ち寄りました。この時、セルカークはシンク・ポーツ号の船体があまりに老朽化しており、航海を続けるのは危険だと強く感じ、船を降りて別の船が来るのを島で待つことを提案しました。

しかし、彼の見解に賛同する仲間は一人もおらず、さらにセルカークとの度重なる衝突にうんざりしていた船長ストラドリングは、彼の要望を文字通り受け入れ、彼一人だけを島に置き去りにすることを決めました。セルカークはすぐに自分の決断を後悔し、船を追いかけて必死に呼びかけましたが、シンク・ポーツ号はそのまま遠ざかり、彼の声は届きませんでした。こうしてセルカークは、予想だにしなかった4年4ヶ月もの間、この孤島でたった一人で暮らすことになったのです。彼が島に持ち込めたのは、マスケット銃、若干の火薬、大工道具、ナイフ、聖書、そして着の身着のままの衣服だけでした。

孤独なサバイバル生活

島での生活の始まりは困難を極めました。セルカークは当初、野生動物への恐怖心や偏執的な不安から海岸近くで過ごしました。内陸から聞こえる正体不明の音に怯え、それを危険な獣の声だと考えたのです。この頃、彼は小さな洞窟を住処とし、貝などを食べて命をつなぎながら、毎日海を眺めて救助船を待ち続けましたが、深い孤独感や憂鬱、そして後悔の念に苛まれる日々でした。

しかし、繁殖期を迎えたアシカの群れが海岸を占拠するようになると、彼はやむなく島の内陸部へと移動せざるを得なくなりました。この内陸部での生活が、彼の状況を大きく変えることになります。そこでは、彼以前に島を訪れた船員によって持ち込まれ野生化したヤギの群れを食料源として見つけました。ヤギは肉として食べられ、乳も利用できました。また、野生のカブやキャベツ、胡椒の実なども見つかり、食事に彩りを添えました。一方で、外部から持ち込まれ野生化したネズミは、夜になると彼をかじりに来るなど、最も厄介な存在となりました。このネズミ対策として、彼は同じく野生化したネコを何匹か飼い慣らし、一緒に暮らすことで、夜も安心して眠れるようになったのです。

セルカークは、船から持ち出した道具や、島で見つけた材料を器用に活用しました。ピメントの木を使って二つの小屋を建て、マスケット銃やナイフを使ってヤギを狩り、解体しました。しかし、火薬が減ってくると、獲物を追いかけるために走る必要が生じました。一度、ヤギを追っている最中に崖から転落し、約24時間意識を失うほどの重傷を負いました（幸いにも追っていたヤギが下敷きになったため、脊椎損傷は免れたと言われています）。彼は精神を健康に保ち、英語を忘れないために、しばしば聖書を読みふけりました。

衣服が擦り切れると、セルカークは釘を使って山羊の皮を縫い合わせ、新しい服を作りました。これは、製革業者だった父から幼少期に教わった技術が大いに役立った例です。彼の靴が完全に駄目になった頃には、足の裏に分厚いタコができて硬くなっていたため、もはや靴は必要なくなっていました。浜辺に打ち上げられた樽を固定していた鉄の輪から、新たなナイフを鍛造するなど、限られた材料で道具を生み出す工夫もしました。

孤立生活中に、二隻の船が島を訪れましたが、どちらもスペイン船でした。スコットランド出身の私掠海賊であった彼にとって、スペイン船に捕まることは悲惨な運命を意味したため、彼は身を隠してやり過ごしました。

救助、そして帰還

待ち望んだ救助の瞬間は、1709年2月2日に訪れました。偶然にも、かつて彼が所属していたウィリアム・ダンピアが水先案内人を務める私掠船デューク号が島にやってきたのです。デューク号の船長ウッズ・ロジャーズは、島で一人暮らすセルカークを発見しました。ロジャーズは彼を「島の総督」と呼びました。

4年以上にわたる孤独な生活を送っていたセルカークは、発見された喜びから激しく取り乱しました。彼は島で培った敏捷性を活かし、一日に二、三頭ものヤギを捕まえることができ、これはデューク号の乗組員たちの体調回復に大いに貢献しました。ロジャーズはセルカークを乗組員として迎え入れ、さらに彼が捕獲した船の指揮を任せるなど、厚遇しました。ロジャーズは自身の著書『世界周航記』（1712年刊行）の中で、セルカークの驚くべき体験について詳しく書き記しています。

帰還後、ジャーナリストのリチャード・スティールはセルカークから島の生活について詳細な聞き取りを行い、1713年12月1日付けの新聞「ジ・イングリッシュマン」に彼の物語を掲載しました。この記事は広く読まれ、セルカークの名を世に知らしめることとなりました。

1717年、セルカークは故郷のロウアー・ラルゴ村に戻りますが、滞在はわずか数ヶ月でした。村で出会った16歳の女性ソフィア・ブルースと駆け落ちし、ロンドンへ向かいましたが、正式な結婚には至らなかったようです。同年3月には再び船乗りに戻り、プリマス滞在中に宿屋の女主人と再婚しています。彼はイギリス海軍の王室船ウェイマス号に艦長補佐として乗船中、1721年 12月13日にアフリカ西海岸沖で死去しました。船上で流行していた黄熱病が死因とみられています。彼の遺体は海に水葬されました。

島の名前と考古学的発見

セルカークが長期滞在したファン・フェルナンデス諸島の島は、彼の物語にちなみ、1966年1月1日に正式に「ロビンソン・クルーソー島」と改称されました。同時に、諸島の最も西にある島は、セルカーク自身が訪れることはなかったと考えられていますが、「アレハンドロ・セルカーク島」と名付けられています。

2005年には、日本の探検家である髙橋大輔氏が率いるチームがロビンソン・クルーソー島でセルカークの住居跡の特定に挑みました。彼らは深さ約2メートルの地中から、焚き火の跡に残った炭と、それに混ざって航海用具である「ディバイダ（割りコンパス）」を発見しました。後の調査で、この炭がセルカークが島に滞在していた時代のものと一致することが判明しました。17世紀から18世紀初頭にかけて同島に上陸した船の記録は少ない中で、航海士であったセルカークが日常的に使用するディバイダが発見されたことは、彼の所持品リストとも一致しており、この発見がセルカークの実際の居住地を特定する上で決定的な証拠となったと髙橋氏は語っています。

文学作品への影響

セルカークの波乱に満ちた人生と孤島でのサバイバルは、多くの作家や詩人に影響を与えました。ダニエル・デフォーの『ロビンソン・クルーソー』が最も有名ですが、他にもアラン・コールとクリス・バンチのSFシリーズ「ステン・アドベンチャーズ」や、ジョシュア・スローカムの紀行文『スプレー号世界周航記』、チャールズ・ディケンズの小説『ピクウィック・クラブ』、そして詩人パトリック・カヴァナーの詩「イニスキーン・ロード：7月の夕べ」などで、セルカークの物語や名前が言及されたり、比喩として用いられたりしています。彼の体験は、孤立とサバイバル、そして人間の精神的な強さを示す物語として、時代を超えて読み継がれています。

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