ウッズ・ロジャーズ

ウッズ・ロジャーズ（1679年頃 - 1732年）は、18世紀初頭のイギリスを舞台に、私掠船の船長、探検家、そして植民地総督として活躍した歴史上の人物です。彼は、世界一周航海を成功させた功績や、カリブ海の海賊たちが支配していたナッソーを平定し、初代バハマ総督として秩序をもたらしたことで知られています。特に、世界一周の旅の途中で救出したスコットランド人船員アレキサンダー・セルカークの物語は、ダニエル・デフォーの傑作『ロビンソン・クルーソー』に大きな影響を与えたと言われています。

ロジャーズは、成功した船主の息子として裕福な家庭に生まれ、イギリス南西部の街プールやブリストルで育ちました。父の後を継ぐべく、若くして見習い水夫となり、航海術や海事商業の知識を身につけます。父親の死後、家業の船事業を継承しますが、間もなく自身の新たな挑戦を模索します。スペイン継承戦争の勃発を機に、彼は私掠船事業への参画を決意します。ブリストルの有力な商人や航海士たちの出資を得て、武装したフリゲート艦「デューク号」と「ダッチェス号」からなる船隊を率いることになりました。この遠征には、高名な航海士ウィリアム・ダンピアも水先案内人として同行しました。

1708年8月に出航した船隊は、およそ3年がかりで地球を一周する壮大な航海へと出発しました。しかし、その旅は多くの困難を伴いました。船員の規律維持、異国籍の乗組員の統率、極寒の海域での防寒対策不足、さらには壊血病の発生など、幾多の難題に直面します。ロジャーズは厳しい措置で反乱を鎮圧し、航海の安全確保に努めました。

この航海中の特筆すべき出来事の一つが、1709年2月、南米沖のファン・フェルナンデス諸島でのアレキサンダー・セルカークの救出です。およそ4年にわたり孤立していたセルカークは、ロジャーズによって発見され、救助されました。彼はロジャーズの船隊に加わり、後に拿捕した船の指揮を任されるまでになります。セルカークの驚くべき漂流体験は広く語り継がれ、特にロジャーズの航海記に記された詳細が、後に『ロビンソン・クルーソー』の物語にインスピレーションを与えたと考えられています。

航海は続き、一行は太平洋でスペインの船舶を拿捕し、現在のエクアドルにあるグアヤキルの町を襲撃しました。太平洋を横断した後、船隊はグアムやオランダ領のバタヴィア（現ジャカルタ）に寄港します。バタヴィアでは修理や補給を行い、ロジャーズ自身も顔に残った銃弾の摘出手術を受けました。しかし、ここでのオランダとの取引は、帰国後にイギリス東インド会社の独占権を侵害したとして訴訟問題に発展する火種となりました。

1711年10月、ロジャーズ一行は無事イギリスに帰還し、史上類を見ない世界一周航海を成功させました。この偉業は彼を国民的英雄としましたが、私生活では多くの困難が待ち受けていました。航海に関連する訴訟や借金、家族の債務などが重なり、彼は経済的に破綻し、破産を余儀なくされます。また、航海中に弟を失い、自身も負傷するなど、個人的な犠牲も少なくありませんでした。しかし、彼が著した航海記『世界一周航海』はベストセラーとなり、特にセルカーク救出のエピソードが人々の関心を集めました。この著作は、航海術や地理に関する貴重な情報源としても評価され、後の航海者たちにも読まれました。

経済的な苦境から脱するため、ロジャーズは新たな道を模索します。今度は「海賊を取り締まる」という使命を帯びて、国王ジョージ1世よりカリブ海のバハマ植民地の初代総督に任命されたのです。当時のバハマは、エドワード・ティーチ（黒髭）をはじめとする悪名高き海賊たちの拠点となり、「海賊共和国」として知られる無政府状態にありました。

1718年、ロジャーズは英国海軍艦船数隻を伴った遠征隊を率いてバハマの中心地ナッソーに到着しました。彼は到着早々、海賊チャールズ・ヴェインと対峙し、巧みな交渉と示威行動によってナッソーの支配権を掌握しました。ロジャーズは、国王の恩赦を受け入れて海賊行為から足を洗う機会を与える一方、抵抗する者には武力をもって臨むという断固たる姿勢で臨みました。かつて海賊頭目だったベンジャミン・ホーニゴールドらを味方につけ、島の要塞を再建し、現地政府を組織して海賊共和国の壊滅に成功しました。

総督としてのロジャーズの統治は、外部からの脅威との戦いでもありました。彼はヴェインや黒髭といった海賊たちからの脅迫に直面する一方、スペインからの侵攻の危機にも見舞われました。特に1720年のスペイン艦隊によるナッソー襲撃では、徹底した防衛策によってこれを撃退し、バハマを防衛しました。また、恩赦を受け入れた元海賊の中からの反乱の企てに対しても、迅速かつ厳格な対応でこれを鎮圧しました。

しかし、これらの活動には莫大な費用がかかり、本国からの援助が不足したため、ロジャーズは深刻な財政難に陥ります。健康を害し、政敵との対立も深まる中、彼は1721年にイギリスへ帰国します。しかし、既に総督職は解かれており、バハマでの負債が彼自身の個人債務として追及され、債務者監獄に投獄されてしまうという衝撃的な展開となりました。

投獄されたロジャーズでしたが、その名誉は完全に失われたわけではありませんでした。彼が情報を提供した『海賊史』が人気を博したことで、再び国民的英雄として脚光を浴びるようになります。この再評価は、国王への請願成功、年金受給、そして1728年にはジョージ2世によって再びバハマ総督に任命されるという劇的な展開へと繋がりました。

二度目の総督としてナッソーに戻ったロジャーズでしたが、健康状態は回復せず、また島の議会との対立など、職務上の困難に直面し続けます。疲弊した彼は、1732年7月15日、任地であるナッソーでその生涯を終えました。享年53歳。

ウッズ・ロジャーズは、その冒険的な航海と、カリブ海の混乱を収拾した功績によって、歴史にその名を刻んでいます。彼の功績を称え、ナッソーには彼の名が冠された通りがあり、かつてバハマの標語として「海賊は追放され、交易が回復した」という言葉が使われていたことからも、彼がバハマにもたらした影響の大きさが伺えます。

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