アレクサンデル5世 (対立教皇)

アレクサンデル5世：教会大分裂期の悲劇的な教皇

アレクサンデル5世（1339年-1410年）は、14世紀末から15世紀初頭にかけて西ヨーロッパを揺るがした教会大分裂の時代に現れた、数奇な運命を辿った人物です。クレタ島出身のギリシャ人、ピエトロ・フィラルゴ（本名：ピーター・フィランジェ・デ＝カンディア）は、貧しい浮浪児として生まれたと伝えられています。しかし、フランシスコ会修道士に拾われ、勉学の道を歩むことになります。パドヴァ大学、オックスフォード大学、パリ大学と名門大学で研鑽を積み、パリ大学では神学を教えるほどの学者となりました。

その後、ミラノ公ジャン・ガレアッツォ・ヴィスコンティの庇護を受け、出世の階段を着実に登ります。1386年にピアチェンツァ司教、1388年にヴィチェンツァ司教、1389年にはノヴァーラ司教に任命され、1402年にはミラノ大司教にまで昇進しました。更には、1405年にはローマ教皇インノケンティウス7世によって枢機卿に叙任され、教皇特使にも任じられるなど、順風満帆なキャリアを歩んでいたと言えるでしょう。

しかし、アレクサンデル5世の運命は、教会大分裂という歴史的事件に大きく左右されることとなります。当時、ローマ教皇座をめぐってグレゴリウス12世とベネディクト13世の二人が対立しており、教会は分裂状態にありました。この事態を収拾するため、1409年にピサ教会会議が開催されました。この会議で、既存の二教皇は廃位され、アレクサンデル5世が満場一致で新教皇に選出されたのです。

しかし、この選出は、教会内の分裂を解消するどころか、かえって事態を悪化させる結果となりました。廃位された二教皇は、アレクサンデル5世の教皇位を認めず、結局、三人の教皇が並立する異常事態が引き起こされたのです。アレクサンデル5世の選出背景には、ギリシャ正教会との合一への期待もあったと言われています。しかし、彼は友人への偏った人事を行い、枢機卿たちの反感を買い、期待を裏切る結果となりました。

それでも、ボヘミア王ヴァーツラフ4世、ハンガリー王ジギスムント、イングランド、フランスなど、有力な勢力からの支持は得ていました。ローマはグレゴリウス12世支持派のナポリ王ラディズラーオに占領されていましたが、アレクサンデル5世は彼を破門し、ルイ2世・ダンジューを新たなナポリ王として支持しました。これにより、ラディズラーオはローマから退去しました。しかし、アレクサンデル5世は教皇選出の翌年、1410年にボローニャで急死します。毒殺されたという噂も残されています。

アレクサンデル5世の短い教皇在任期間は、教会大分裂という混沌とした時代における、悲劇的なエピソードとして歴史に刻まれています。彼の生涯は、貧しい出自からローマ教皇という頂点に上り詰めたものの、教会分裂という壁を乗り越えることができず、早逝した、波瀾万丈の人生でした。彼の人生と時代背景を理解することは、中世ヨーロッパ史、特に教会史を理解する上で重要な視点となります。

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